競馬歳時記【7月3週】「函館記念」

【はじめに】
重賞競走の歴史を振り返りながら季節の移ろいを感じる「競馬歳時記」。今回は「函館記念」の歴史をWikipediaと共に振り返っていきましょう。

函館記念は、日本中央競馬会(JRA)が函館競馬場で施行する中央競馬重賞競走GIII)である。競馬番組表での名称は「農林水産省賞典 函館記念」と表記している。

函館記念
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』( 以下省略 )

昭和中盤:オープン特別扱いで開催

オフィシャルには、1965年(昭和40年代)に重賞として創設とされていますが、それ以前にも函館競馬場を代表するような名物競走は実在していました。

  • 1862年:祭典余興として、競馬に似たものが行われていた記録
  • 1875年:招魂社(現:函館護国神社)例大祭の祭典競馬
  • 1882年:函館海岸町競馬場が開設(1879年函館大火からの再興のため)
  • 1896年:現在の駒場町に移転(国内現存の競馬場では最古の歴史)

古く明治時代から函館競馬は開催されており、その記録は殆ど残っていませんが、おそらく函館を冠したレースもあったのではないかと思います。

例えば、戦前には「帝室御賞典」や「四歳呼馬特別」、「明四・五歳特別」(ピアスアロートマスなどが優勝)などの名物競走がありましたが、戦後になって「函館記念」という名前のレースが時々、開催されていました。Wikipediaには以下のように纏められていました。(↓)

施行日優勝馬性齢タイム優勝騎手
1951年8月16日シラオキ牝62:34.2清田十一
1952年8月3日トラツクオー牡52:45.2小林稔
1953年8月16日イカホザン牝52:35.2高松三太
1954年8月15日タカオー牡42:33.1浅野武志
1957年8月25日オンワードゼア牡42:41.0二本柳俊夫
1961年8月27日ハローモア牡62:36.5保田隆芳
1962年7月29日ヒカルポーラ牡42:32.3高橋成忠
1963年8月18日ベルソーナ牡42:34.1野平祐二
1964年7月26日マルサキング牡42:36.5野平祐二
1951年のみ札幌・砂2400m、そのほかは函館・芝2400m。
  • 現行の函館記念が創設される以前、1951年から1964年までの間にも『函館記念』という名称の競走が施行されていた。競走条件は4歳(当時の馬齢呼称)以上、負担重量はハンデキャップで、現在でいうところのオープン特別競走という取り扱いになっていた。
  • この時期の優勝馬にはシラオキトラツクオータカオーオンワードゼアなどといった馬が名を連ねている。

初回は札幌競馬場の砂コースで開催され、56kgを背負った現5歳牝馬のシラオキ。優勝戦やオープン戦などの勝利以外で(当時は重賞ではないものの)特別競走を制したのはこれが唯一でした。ひょっとするとこの勝利が、将来の名牝系の創設に影響したのかも知れませんでしたね。

1952年は現4歳時の菊花賞馬・トラツクオー、その翌年は前年2着だったイカホダケ、1954年は春に快進撃を遂げていたタカオーが66kgでレコード勝ち。そして、昭和30年代も一線級が優勝しています。

昭和後半:重賞に昇格、2000mに短縮、GIII格付け

そして1965年、夏競馬として各地で開催されてきたレースが挙って重賞に昇格します。8月には、新潟記念、札幌記念、福島記念、小倉記念、そしてこの函館記念がこの年が第1回に数えられています。

「函館記念」の昭和時代の主な結果
  • 1965年
    第1回
    クリベイ

    クモハタ記念に次ぐ半年ぶり重賞制覇。牝馬パスポートは59.5kgを背負い3着。

  • 1966年
    第2回
    メジロボサツ

    オークス2着以来のレースを52kgと軽ハンデもあり完勝。

  • 1968年
    第4回
    リユウズキ

    この年から2400→2000mに短縮。距離が変わってもリユウズキが連覇、しかも2分1秒0のレコード勝ち。

  • 1970年
    第6回
    メジロアサマ

    前年2着時から8kg重い58kgでも完勝。秋には天皇賞を制覇。

  • 1971年
    第7回
    メジロムサシ

    目黒記念→天皇賞→宝塚記念を3連勝→高松宮杯2着からの連戦。前年の天皇賞馬・リキエイカンより7kg重い62kgながら完勝。

  • 1976年
    第12回
    エリモジョージ

    12番人気で天皇賞を勝っていたエリモジョージ。60kgを背負い9頭立ての8番人気ながら、気まぐれな楽勝。リユウズキのタイムを上回る2分0秒台のレコード勝ちな上に7馬身差を決める。

  • 1977年
    第13回
    ヤマブキオー

    現7歳でキャリア最高の63.5kgを背負い勝利。これが生涯通算18勝目。

  • 1979年
    第15回
    エンペラーエース

    現4歳54kgで5番人気のエンペラーエースが2歳時以来1年半ぶりの優勝。勝ちタイムが何と従来のレースレコードを1秒9更新する「1分59秒0」!

  • 1984年
    第20回
    ウインザーノット

    この年から「GIII」に格付け。ウインザーノットが現3歳秋の条件戦で初勝利をあげてから5連勝で重賞制覇。翌年には連覇を達成。

  • 1986年
    第22回
    ニッポーテイオー

    3連覇を目指したウインザーノットは60.5kgで4着。優勝したのは現3歳だったニッポーテイオーで、1分58秒6のレコード。

  • 1988年
    第24回
    サッカーボーイ

    現4歳のメリーナイス、現6歳のシリウスシンボリというダービー馬が59kgに苦しむのを後目に、56kgの現3歳馬【サッカーボーイ】が5馬身差の圧勝。勝ちタイムが何と「1分57秒8」という当時の日本レコード。

少し長くなりましたが、歴代の勝ち馬を見ても、オープン時代から変わらず本当に中央の重賞かの様な豪華な顔ぶれです。八大競走で戦う馬が多く出走していた点で現代とは隔世の感があります。

これには、かつて「札幌競馬場」に芝コースがなく、古馬芝重賞が「函館記念」しかなかったことや、現在と北海道開催の順序が逆で8月後半に開催されていたことなどが影響しています。要するに、GIIIではあったものの現在の「札幌記念」の役割をこの函館記念が昭和時代には担っていたことを意味するのです。

平成・令和年間:7月開催移行、エリモハリアー3連覇

1990年に札幌記念が芝コースで開催されるようになると、徐々にそちらに有力馬がスライドするようになり、一転して函館記念は層が薄まっていきます。その傾向が決定づけられたのが、1997年でしょう。

札幌競馬と開催順序が逆(今の順番)となり、夏競馬の前半戦に開催されることとなったため、一流馬が休養に充てる7月の開催となったためです。実際、平成年間の勝ち馬を見ても、八大競走の勝ち馬どころかGI馬すら殆ど見られなくなってしまいます。

それでも例えば、平成1桁台では、メジロパーマーが現3歳時に48kgで出走したり、ホクトベガが2年連続で出走していたのですが、2000年代になるとローカル重賞の一角として定着し、GIIIレベルの馬が大半を占めるようになりました。

平成年間の主な「函館記念」
  • 1994年
    第30回
    ワコーチカコ

    3連勝で3馬身差の完勝。下した相手がタイキブリザード、ホクトベガ、11着と敗れたツインターボなど。

  • 2004年
    第40回
    クラフトワーク

    牝馬で57kgを背負った5歳のファインモーションがクビ差の2着。勝ったのは、4歳馬のクラフトワークで重賞初制覇。半年の休養を挟んで重賞3連勝へ。

  • 2007年
    第43回
    エリモハリアー

    年々斤量が重くなり57kgで、7歳馬となったエリモハリアーは10頭立て7番人気と低評価。しかし過去2年と同じく函館適性を見せ、函館記念史上初の3連覇。

  • 2020年
    第56回
    アドマイヤジャスタ

    単勝77.3倍の15番人気アドマイヤジャスタが優勝し、7歳牡馬で53kg13番人気ドゥオーモが2着。馬連13万、3連単343万馬券の大波乱。

気づけば函館記念は1992年からの30年間で1番人気が僅か3勝(勝率10%)と低迷。多くは5番人気以内が勝利しているとはいえ紐荒れの年も多く昭和時代とは全く別物のレースとなっています。

(↑)この1番人気「勝率10%」というのは、「函館2歳S」でも見かけた数字です。

そして、ここ6年のレースレーティングを表にすると次のとおりとなりました。(↓)

レースR勝ち馬斤量
2016104.25マイネルミラノ56kg
2017105.25ルミナスウォリアー55kg
2018109.50エアアンセム55kg
2019110.00マイスタイル56kg
2020104.00アドマイヤジャスタ54kg
2021106.50トーセンスーリヤ56kg
2022

2018~19年にかけては「GIIの目安:110ポンド」に達していますが、それ以外の年は「GIIIの目安:105ポンド」付近に収斂していて、このレースレベルは抜本的な改革が無い限り続くと見られます。

レースとしては既に、秋競馬に向けての役目は殆どなく、「サマー2000」シリーズの一貫に組み入れられていることからも明らかな様に、GIIIを主戦場とする馬だったり初重賞制覇をハンデ戦で目指す馬達による戦いとして注目していきたいと思います。

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