【プレバト!! 俳人列伝】中田喜子名人

【はじめに】
10代で芸能界デビューをし、女優デビューをしてちょうど半世紀を迎えた中田喜子さん。DIYの本を執筆されたりと多趣味でも知られていましたが、ここ最近は「プレバト!!」俳句査定での喜怒哀楽っぷりもとい素晴らしい俳句作品で若い世代まで広く知られています。

気づけば「プレバト!!」俳句査定では、女性初の名人昇格、春の季語『花追風(はなおいて)』の造作や2022年炎帝戦でのタイトル戦初優勝など、数々の輝かしい実績を残すこととなりました。

今回は、中田さんの代名詞ともなっている『句またがり』の句を始め、過去披露された傑作たちをその俳句の形(パターン)別に分類していきますので、皆さんもぜひ参考にしてみてください!

定型(五七五)の名句たち

まずは、俳句の基本ともいえる「五七五」の俳句から振り返っていきましょう。ここにこそ、中田さんの俳句の原点があるという風に考えます。

(2014~17年)初挑戦で80点だった一般参加者時代

中田さんは、俳句査定が番組で始まって半年足らず(2014年4月)のタイミングで初挑戦をしました。その時の査定が「才能アリ1位80点(今と得点基準は違うものの極めて高得点)」というものでした!

1位80点・『春愉し房総の空ひた走る』

凝りに凝った作品ではなく非常にシンプルで気持ちの良い作品です。季語「春」という、非常に広くて難しいはずの季語を『房総』という地名によって立たせているのが感じられると思います。

そして、気がつけば、中田さんはこの輝かしい実績のもと初挑戦から約3年をかけて「特待生」に昇格することとなります。特待生制度が始まってからという期間としてはそこそこ早いのですが(^^;

放送月順位得点
2014/041位80点
2015/021位70点
2015/091位71点
2016/022位60点(唯一の凡人)
2016/122位70点
2017/021位72点

初挑戦から3回連続才能アリ、そして4度目の挑戦は『梅の香やすずなり絵馬に目をみはる』で唯一の凡人査定となりましたが、5・6回目と連続才能アリを獲得し、6回連続「1位or2位」かつ平均点が70点以上という超ハイレベルな成績で女性初の特待生昇格を果たしました。

2017年:タイトル戦4位2回、7月の月間MVP

当時はまだ一発決勝戦だった俳句タイトル戦に、特待生5級で挑戦した中田さん。当時は「俳桜戦」という名称だった春の戦いに果敢挑んで、なんと全体4位という高順位で大健闘をみせました。

俳桜戦4位『初桜響けるひづめ皇居へと』→『皇居へと響けるひづめ初桜』
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そして2017年7月に特待生4級への昇格を果たした作品は、月間MVPにも認定されました。その句が、

5→4級空蝉うつせみの転がるベンチ海の駅』

夏井先生の地元にほど近い「下灘駅」が兼題写真となったこの良回で、季語を含んだ12音のフレーズと季語ではない5音を取り合わせた作品という難しい型を披露し、夏井先生が絶賛していました。

2018年:破調が多い中、特待生1級に昇格した定型の句って?

後述しますが、女性初の名人を目指していた頃の中田さんは、どんどんと破調の句を作るようになります。しかし、名人昇格に王手となる特待生1級に昇格する時の句はしっかりとした定型の作品でした。

2→1級段葛だんかずらきやらぶき弁当かかへゆく』

言葉に2つほど馴染みのないであろう「段葛」と「きゃらぶき弁当」を補足させていただきますねー

段葛(だんかずら)とは、神奈川県鎌倉市鶴岡八幡宮参道若宮大路のなかで、二の鳥居から鶴岡八幡宮までの車道より一段高い歩道をいう。

段葛
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

そして、この句の季語は「きゃらぶき」です。実物を見れば分かるという型も多いかと思います。

きゃらぶきフキ佃煮。日本の伝統的な保存食の1つ。ツワブキを用いて作られることもある。……季語としては、初夏(太陽暦5月、旧暦4月)の季語となる。

醤油で食材を煮た料理は濃い茶色、伽羅色に仕上がることから「伽羅煮」と呼ばれることが多いが、本品もそういった伽羅煮の1つである。漢字表記では「伽羅蕗」となる。

きゃらぶき
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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よくみると上述の句は「きゃ・ら・ぶ・き・べ・ん・と・う」と8音で中八ではあるのですが、音読するとあまりそれが気にならないようなポップさがありますよね。

2019年:造語の季語「花追風」を披露した令和初回

この年は、特待生から名人3段まで昇格した中田さんですが、名人昇格を決めた『梅東風や受話器の底に母国あり』や3段昇格を決めた『流れでるショコラの奥の冴ゆる巴里』のように、3度の昇格は全て定型による作品でした。

初→2段『「とき」発車旅憂わしき花追風』

(↓)「花追風」の解説については、上の記事からご確認ください。

2018年は句またがりを、2019年は定型と造語の季語で飛躍を遂げた中田さん。ここからは駆け足で、2020年代の定型の句を振り返っていきましょう。

  • 2020年:3→4段
    『誘導鈴風花ひかる改札へ』
  • 2021年:金秋戦予選1位
    『しぶき上げ復活の秋ひとりじめ』

このように年に1度ほど定型でも高評価の句が披露されるようになりますが、基本的には格が上がるに連れて、ここからご紹介する「句またがり・破調」を得意とするようになっていきます。

句またがり・破調の名句たち

しかし、昇格が極まるにつれ、中田さんは『句またがり』や『破調』で注目されるようになります。

2016年:初の句またがり挑戦が「季重なり」!

そもそも最初は、上で見た通り五七五での作句がほとんどだった中田さん。最初に句またがりで作句したのが、2016年12月に披露した作品です。実はなんと季重なりでもあるというチャレンジングな内容でした。(↓)

『発車ベル待たずやうさぎ雪の野へ』→『発車ベルに驚くうさぎ雪の野へ』

個人的には原句も好きだったのですが、「擬人化」せずとも十分という評価のもと右の添削例のような形となりましたが、70点2位で4度目の才能アリを獲得した作品です。

放送月順位得点備考
2014/041位80点定型
2015/021位70点
2015/091位71点
2016/022位60点(唯一の凡人)
2016/122位70点初の句またがり

季重なり
2017/021位72点定型

上で紹介した表に「備考」を加えました。中田さんからすると、特待生昇格を目指した回で凡人だったため、リベンジを果たすべく出来る限りの工夫をしたのが5回目の挑戦となったこの「発車ベル」の句だったのだと予想できます。

「うさぎ」も「雪の野」も冬の季語『季重なり』であり、なおかつ、『発車ベル待たずや』と中七の途中で句の意味が切れるという『句またがり』を一般参加者の身分でありながら果敢に挑戦するというその姿勢は特待生・名人になってからも根付いています。

2017年:語順逆なら2ランクアップだった「梟」の句

特待生昇格を果たした中田さんが、『語順が逆なら2ランクアップだった』と言われたのが、こちらの句です。「梟(ふくろう)」も冬の季語とされています。

4→3級『梟の羽ばたき百夜の湯治場』→『梟の羽ばたき湯治場の百夜』

提出直前に「百夜の湯治場」としてしまったと悔やむ中田さんでしたが、夏井先生は「湯治場の百夜」と夜の闇で終わる方が良いと断言。しかし、この句またがりの作品の芸風を高く評価していました。

2018年:夏・冬の予選を1位通過!

なかなかタイトル戦の本戦で結果が出せなくなっていた中田さん。「歴代ベスト50」入りをするほどの傑作を披露した場が「予選」の場でした。まだ名人昇格を果たせなかったため当時のルールで予選から挑戦して2句用意しなければならなかったため、気合十分で迎える予選に秀作が提出される傾向にあったのだと思うのです。

炎帝戦予選1位『光束ねるごと日焼子ら走る』

「日焼/日焼子」が夏の季語。ストレートな『ごとく』俳句ですが、他の方を圧倒するような破壊力があり、堂々の予選1位通過となりました。そしてそれから半年後の冬麗戦。年始のスペシャルで決勝戦が放送される関係で、2018年12月に放送された「予選」で、千原ジュニア名人の『破魔矢』の句などを破り予選1位通過となったのがこちらの句でした。

冬麗戦予選1位『連覇のさきぶれ沸き立つ初電車』

この句も前半で何だろう? と謎をにじませ、後半で季語と共に種明かしをするような作品です。この形を掴んだ中田さんは傑作を量産し、この句は月間最優秀句にも選ばれていました。

2019年:久々に決勝4位となった句またがり

前年から予選1位で通過するも決勝で気合が入りすぎ下位に沈むのが定着してしまっていた中田さん。2019年の金秋戦では、約2年ぶりに決勝4位に入賞する句を披露します。それがこちらでした。

金秋戦決勝4位『横断の人波秋光を放つ』

17音のうち平仮名は3文字だけ。ほとんどが漢字という張り詰めた作品でありながら、「横断の人波」という前半で情景を描き、後半で「秋光」という漢語のような格調と共に俳句として仕立て上げられている点が高評価となりました。

2020年:自身最高・決勝3位となった「若芝」の句

冬は下位に沈んだものの、2020年の春光戦では自身最高(当時)となる3位となり、次回シード権を獲得した中田さん。その時の句がこちらの「若芝」の句でした。

春光戦決勝3位『若芝に大の字身ひとつの移住』

若芝という季語を選択したことで、若々しさや溌剌と希望に溢れる感じが出せていると高評価でした。また、秋には予選1位を通過した時も『泡ポンプの英知秋天を仰ぐ』と句またがりで好成績を挙げていますが、この年は春光戦3位以外は決勝で下位に沈んでしまっていました。

2021年:決勝5位も句またがりの難しさ

2021年は、決勝で2度「5位」となりますが、夏井先生から『句またがり』を選ぶことの是非も含めてその作句の難しさを改めて考えさせられる年となりました。

冬麗戦5位『ゴムとび競ふ声冬天に満ちる』→『冬天に満つゴムとびを競う声』

僅かな差ではありますが、左の原句は「破調」っぽいですが、右の添削句は情報をほとんど変えていないのに定型っぽさが増し読みやすくなりました。一時期、句またがりの句が上位に進出していたので、(自分含め)句またがりの方が簡単なのではないかと錯覚していた方がいらっしゃいました。しかし、あくまで「句またがり」は定型外れであり、そこにはそれなりの難しさがあることを直視しましょう。

春光戦5位『『ちょき』だす子春の光を突き破る』→『チョキで勝つ子は春光を突き破る』

To Be Continued…

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