【はじめに】
この記事では、「プレバト!!」という番組の人気を開拓してきた“Mr.プレバト”こと【梅沢富美男】永世名人の俳句を振り返っていきます。
『梅沢富美男 第一句集』を楽しみにされている方も多いかと思いますので、今回は各年に1句、私の好きな句をピックアップする形に留めたいと思いますが、梅沢さんがこれまで辿ってきた道のりを振り返られるように頑張りましたので、ぜひご覧ください!
一般参加者時代(空前絶後の才能アリ9回)
2013年『頬紅き少女の髪に六つの花』(85点)
「プレバト!!」の俳句査定に梅沢さんが初挑戦したのは、2013年12月5日です。これは俳句査定の2回目であり、まさに俳句査定の最初期にあたります。「プレバト!!」という番組は2012年に始まり、その翌年(1年あまり後)に始まった俳句査定の歴史と共に梅沢さんの俳句人生は始まりました。
第2回にして番組2位タイの85点という高得点を叩き出したのは、こちらの句でした。(↓)
2013年『頬紅き少女の髪に六つの花』(85点)
今振り返ってみても、初挑戦とは思えない大人びて落ち着いた作品です。『六つの花』という季語を知っていて使える時点で並の作品ではないという風に感じます。
この「85点」というのは初期特有の高得点で、今の「70点」台よりも高いという意味では必ずしも無いのですが(↓)、今で言う「72~73点」ぐらいの高評価だったという風に思います。
☆「プレバト!!」俳句1位の得点をグラフにしてみた|Rxのnote
https://note.com/yequalrx/n/n810a723bb600
2014年『しんしんと仏の白き息あおぐ』(80点)
そして2014年だけで5回出演。2回目の挑戦はイレギュラーな番組初期のタイトル戦(俳句王決定戦)で「65点・Bブロック2位(=敗退)」という結果でしたが、それ以外は全て「才能アリ」とします。今は3~4回も連続で才能アリとなれば特待生にお声が掛かりますが、番組初期はまだ特待生制度がなかったため、通常査定で才能アリを連発していったのです。
時期によって点数の上限が大きく異なっていきましたが、2014年12月18日に披露された句では、5月以来の80点を叩き出しています。その時の句がこちらでした。
2014年『しんしんと仏の白き息あおぐ』(80点)
5月の80点は2位でしたが、この12月の句は堂々の1位。そして、番組初期(197句の段階)で発表された歴代俳句ランキングで全体の3位に入る高評価を得ている作品でもありました。2・1位を披露した方が番組に出演していないことを考えると、番組初期から現在まで出演し続けている数少ない存在ということができるでしょう。
『しんしんと』と来るとどうしても「雪」を連想しますが、中七で「仏」が登場し、そこから「白き息(≒息白し)」という本物の季語が登場、そこに「あおぐ」という動詞を下五で据えることで、仏様が白い息を吐いておられるという空想にも、大仏を仰ぐ人間の息が白い描写の句にも詠める奥行きが出るのです。
また、『しんしんと』とあることで「雪」を省略する高度な技を使い、大仏に雪が積もっている様子を間接的に描くことにも繋がっているとみられ、既にこの段階で風格が漂っていたことが窺えます。
2015年『たいくつなコスモス風を揺すりけり』(特待生昇格)
2015年9月までで梅沢さんは才能アリの連勝記録を「9」まで伸ばします。もちろん1位のこともあれば、惜敗で2位になることもありましたが、大崩れせず70点以上をキープした実績を買われ、2015年10月の毎週1時間レギュラー化に際して「特待生制度」が始まり、第1号となったのです。ちなみに、2位ながら強く印象に残っている2句をご紹介しますと、
76点2位・『トランクに腰掛けバス待つ春隣』 (柴田理恵さんに惜敗) 72点2位・『たいくつなコスモス風を揺すりけり』(友利新さんに惜敗)
これらの2句はどちらも長閑で爽やかな自然の中の光景を描いた傑作句だと思います。(この時点から後の特待生・柴田さんは参加していたんですよね、1位の句は更に傑作なのは間違いないのです^^)
特待生・名人時代
2015年10月1日、レギュラー放送で(何級とかの表示がない)「特待生」として初挑戦するも、現状維持査定で出鼻をくじかれるも、2回目の挑戦からは「5→4級」といった具合に級段位制度が導入をされ、1つずつ階段を登っていくこととなります。
2016年『蜜柑「け」とばっちゃが降りた無人駅』
2016年ともなると、特待生が2人並び、上級位者として格下の特待生に厳しい言葉で当たるヒール役の立ち位置が定着していき、番組の人気とも呼応していきます。そして、特待生昇格から約半年の2016年4月には特待生1級となり、6月には『トランクの下の水たまりにも虹』と五七五の定型を崩した作品で番組初の名人昇格を果たします。
しかし、名人昇格を果たしてから夏は2回連続「現状維持」、晩夏に2回連続「昇格」を果たして名人3段にまで昇格するも、初秋にかけて2回連続「降格」を受け、名人初段に逆戻りしてしまいます。
18回も出演し準レギュラーとなった2016年のおっちゃんは、仲秋に2連続昇格で名人3段に復帰し、そして年末(2016/12)に、この句で名人4段への昇格を果たしたのです。
2016年『蜜柑「け」とばっちゃが降りた無人駅』
雪の電車という兼題から津軽に発想を飛ばし、「食べなさい」といった意味の『け』という方言を活かした点で、兼題写真がなくても北国ではないかと十分想像が向かう点が評価されていました。YouTubeでは「無人駅」が『凡人ワード』として取り上げられていましたが、これは東北地方出身のおっちゃんがうまく出身の境遇を活かした俳句を披露するようになります。
2017年『銀盤の弧の凍りゆく明けの星』
そんな風に名人として最上位を謳歌し、若干「天狗」になっていた梅沢富美男名人を、バラエティ適性も抜群な”夏井いつき”先生がドッキリを敢行します。浜田さんと夏井先生が『仕掛け人』となった新春特番『ドッキリアワード2017』で、
『富士に手をかざして返す羽根日和』(名人4段→特待生1級へ4ランク降格?!)
と渾身の俳句に、『何がおかしいのかもわからないんだから、特待生からやり直し』と添削すらしてもらえず番組史上初(当然唯一)の4ランク降格という大ドッキリ。おっちゃんも困惑し、ドッキリと知らない周囲がざわつき恐怖を覚える中、『ドッキリ大成功』のプラカードを仕掛け人が披露するという定番の流れでドッキリ大成功。
夏井先生も”あっかんべー”をして戯ける様に、梅沢さんはこれまで以上に怒り心頭、この回あたりを契機に『毒舌先生こと夏井先生とのバチバチ(の口喧嘩)』が番組の定番の一つとなっていきました。
さて、この3日後(2017/1/5)に放送された本当の昇格試験では無事に5段昇格を果たすと、その月末(2017/1/26)には、梅沢名人の3桁にのぼる俳句の中でも最大級の讃辞を受けた作品が誕生します。
2017年『銀盤の弧の凍りゆく明けの星』
この句は以下の4つの出来事から、夏井先生も高く評価していることが分かります。それはすなわち、
という大きな栄誉です。特に「365日季語手帖」といえば、松尾芭蕉・正岡子規といった数々の名俳人の句が(当時は特に)並んでいましたから、その中におっちゃんの「プレバト!!」俳句が連なっていることが新鮮だったことを覚えています。
2017年後半ともなると、『いさばのかっちゃスカーフはあけびの色』や『夜学果てまだ読みふけるおとがひよ』といった(個人的にも好きな)句で名人の上位に昇段していきます。ちなみに11月には、当初「現状維持」だったのに文句を言い過ぎて7段へ降格となってしまうアクシデントもありました。
2018年『旱星ラジオは余震しらせおり』
2018年7月に、番組史上初の「名人10段」に昇格した梅沢名人。実はそこから「☆5つ」獲得しなければならないという突如の新ルールにまたしても驚愕することとなるのですが、名人10段に昇格をした直後の俳句タイトル戦(第2回・炎帝戦)でもうひとつの悲願を果たします。
2018年炎帝戦優勝『旱星ラジオは余震しらせおり』
春夏秋冬に合わせた俳句タイトル戦が2017年度から開催されるようになるも、2017春:不参加、夏:6位、秋:不参加、2018冬:3位、春:2位 と段位と比して勝ちきれない大会が続いていた梅沢さんでしたが、2018年の炎帝戦は、前年のリベンジを果たし初優勝を遂げました(↑)。
これまで寒い季節に強い印象が個人的にはあった”おっちゃん”が、福島県出身の思いと共に詠んだこの句は、(前々年の)熊本地震などの記憶も強い中であったこともあり、強烈な印象をもたらしたことを今でも思い起こします。素晴らしい句での初優勝でした。
名人10段時代
2018年『廃村のポストに小鳥来て夜明け』
2018年いっぱいは名人10段で「現状維持」査定が続いた梅沢名人ですが、2018年秋のタイトル戦でも「2大会連続優勝(夏・秋の連勝)」を達成します。その時の句がこちらでした(↓)
2018年金秋戦優勝『廃村のポストに小鳥来て夜明け』
タイトル戦にめっぽう強く名人最上位を争っていた東国原名人が最下位に沈む中、この句が非常に高い評価を得ます。そして翌年度には、他の特待生・名人からのアンケートでの最多得票にも選ばれるなど円熟の秋(とき)を迎えていました。
2019年『紙雛のにぎやか島の駐在所』
時代が平成から令和へと移る中、おっちゃんは「三歩進んで二歩下がる」といった感じでじわじわと☆を重ねていきます。2019年が始まった段階では☆0だったところから、2月末の段階で☆3にまで一気に前進を決めていたのですが、☆3を獲得したのがこちらの句でした(↓)。
2019年『紙雛のにぎやか島の駐在所』
『にぎやか』という俳句で使い所が難しい単語をうまく据えて、『島の』と場面を緩く設定し、最後に「駐在所」という具体的な場所で17音のドラマを仕立て上げる。☆1の「(牢名主/)おでん缶」の句や☆2の「シジミ蝶」の句と並んで、前年からの良い流れを継いでいた印象です。
2020年『花束の出来る工程春深し』
そして「コロナショック」となり、通常回放送が一旦中断し、通常収録が再開された2020年5月7日。おっちゃんがついに「永世名人」への昇格を果たします。その時に詠んだ句がこちらでした。(↓)
2020年『花束の出来る工程春深し』
単体で「花」といえば俳句の世界では「桜」のことを指すかもしれませんが、「花束」とすると桜の花ではなく、何らかの草花を束ねた非季語な存在となります。そして中七に一つ工夫があり、「花束の出来る工程」という僅かな時間だったり花束を作る(花屋さんの)手捌きなど想像の余地が広がります。
そして「花束の出来る工程」という12音の”季語ではないワンフレーズ”を中七までに揃え、俳句という17音の最後(下五)にどんな季語が来るか……という大きな期待感に応えるのが「春深し」という大きな季語です。具体的に映像を持たないはずの季語に、朧げな映像しかもたない12音が噛み合わさることで、単なる掛け算ではないシナジー効果が出るのです。
夏井先生は「季語を信じる力のある人に永世名人の称号を送りたい」と表現。2020年春に、番組初の「永世名人」への昇格を果たし、句集完成に向けた新たなフェーズに突き進んでいったのです。
永世名人時代
18句からスタートした永世名人の旅は、このままのペースだと80歳近くになってしまうと叫んでいました。2020年末の段階で25句(+7句)とようやく折り返し。しかしその翌年には、ほぼ毎週の勢いで番組に登場し、15句「掲載決定」の評価を受けます。
2021年『「最初はグー」聞こゆ志村忌春の星』
2021年1月は『四日はや雪駄でたぐる駅の蕎麦』、2月には『春の雪まだ現役の鯨尺』など、やはり冬に名句を次々披露して「掲載決定」を重ねます。そして、その翌3月には、春光戦が開催。結果的には3位と久々のタイトル戦優勝とはならなかったものの、俳句の世界に新たな季語(の候補)を生み出すこの句を披露します。
2021年春光戦3位『「最初はグー」聞こゆ志村忌春の星』
そして、夏には2勝1敗の時期が訪れるなど、2021年を通じて「掲載決定」の俳句を多く披露できる様になり、句集完成を目指す2022年につながっていきます。
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