【はじめに】
この記事では、「プレバト!! 俳人」名人・特待生の俳句を振り返っていきます。今日は、史上初の平場からの「タイトル戦優勝」を果たしている【犬山紙子】さんです。
「犬山紙子」さんの職業をウィキペディアは何と書いてる?
犬山 紙子(いぬやま かみこ、1981年12月28日 – )は、日本のコラムニスト、エッセイスト、ラジオパーソナリティ。本名は未公表。
犬山紙子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
私は最初、「犬山紙子」さんが何の職業の方か分かりませんでしたが、コラムニスト・エッセイストとカテゴライズされているんですね。
来歴
大阪生まれ。幼少時代を大阪府、兵庫県で過ごし中学生の時に宮城県名取市に移住。東北学院大学経済学部卒業。地元仙台の出版社で編集者として勤務。家庭の事情で退職後、マガジンハウスからブログ本「負け美女」を出版するまでニート生活を過ごす。
作家デビュー後は雑誌、ラジオなどのメディアなどに出演し、TVでコメンテーターとしても活動している。
( 同上 )
「プレバト!!」で披露された俳句を振り返る!
「プレバト!!」に初出場したのは2016年4月というタイミングで、第1子妊娠を発表(8月)する少し前でした。ここからは、「プレバト!!」で披露された俳句を紹介していきましょう。
初登場から2回連続で才能ナシ最下位
犬山さんは初登場から2回連続で才能ナシ最下位という散々なデビューでした。その時の句がこちら。
2016年4月 5位・25点 | チューリップ ネットに上げる女の業 ↓ 可愛いふりしてSNSのチューリップ |
2016年5月 5位・30点 | 三十路越え滝に近づき保湿する ↓ 滝しぶき三十路の肌を潤わせ |
どちらの句も添削前の句は、有季定型とは少し違った俳諧味を持った雰囲気です。こういった路線での俳句の流派が無い訳ではないのですが、「プレバト!!」にはそぐわないこともあってか最下位査定に。
夏井先生が番組での査定の軸としている「有季定型」に則れば、敗因は、かなりはっきりとしていると思います。
これです。寧ろ「季語にもなる言葉が入った川柳」に近いかも知れません。1句目は「チューリップ」の句というより「インスタ映えを目指す女(の業)」の句ですし、2句目は、「滝」を『加湿器』扱いしていると番組内で酷評されていました。
ひょっとすると、「コラムニスト」で「エッセイスト」という肩書きの方であることが、ネガティブに反映したのかも知れないなと思いました。どういうことかというと、
- 「お笑い芸人」は、観客(詠み手)を信じていないので説明し過ぎる
- 「小説家」は、17音に情報を盛り過ぎる
- 「エッセイスト」は、メッセージ(主張・感想)を伝えようとし過ぎる
こういう可能性もあるのかなぁ、と思いました。自由律の代表的な句『咳をしても一人/尾崎放哉』には、感情を直接表現していませんが詠み手に伝わります。こういう方が、俳句では好まれるそうです。メッセージを伝えるならば、俳句以外の媒体(エッセイ、SNSなど)の方が向いているかと思います。
3度目で初の才能アリが72点・1位!
出産発表前に立て続けに出演した2016年春~夏の犬山さん。3度目にして、いきなり初の才能アリで72点・1位に輝きます。その句がこちらでした。
『故郷の干物ゆらめく溽暑かな』
「溽暑」という季語は、この翌年の炎帝戦でノンスタ石田さんも詠んでいましたよね(↓)。蒸し暑さを感じさせる夏の時候の季語です。
前2句とは句柄がまるで違って、夏井先生もびっくり仰天していました(^^ しかし、72点・1位も納得の手堅い作品で、『故郷の』という凡人フレーズの王道から上五が始まるのにしっかりと映像が立ち上がってくる辺り、本当に素晴らしいと感動した覚えがあります。
ただ、この当時から「成績に波(ムラっ気)」がある傾向はハッキリしていました。事実この後の2回は55点の3位ということで、初登場からの平場5回を並べると、「25→30→72→55→55点」という推移でした。平均点47.4点、才能アリ1回といった平凡な成績だったのです。
転機となった2021年・炎帝戦
2019年5月の出場を最後に、2年以上「プレバト!!」俳句査定から離れていた犬山さんが番組への出演を果たすのは、2021年夏のこと。まさかの(第5回)炎帝戦というタイトル戦の決勝の舞台でした。
『俳句ポスト』のような特設の投句ボックスに応募できるのは、『過去に1度でも才能アリを獲得したことがある人物』だけ! というのが2021年の新たな「炎帝戦」の参加要件でした。
ただ、このルールに、「本当に才能アリ1回だけ」の身で投句をし、本戦出場を決めてしまうあたりの勝負勘の鋭さというのは流石だな、と改めて感じます(^^) 普通であれば応募しませんよ恐らくww
『通りすがり』とか『一見さん』などと侮られていた犬山さんですが、蓋を開けてみれば、2ヶ月寝ないで考えた東国原永世名人などを退けて、タイトル戦初出場初優勝の偉業を成し遂げました。その句がこちらでしたね。
『日盛りや母の二の腕は静謐』
1回目の才能アリだった句での「溽暑」もそうですが、冒頭2回の句を書いた人間とは思えないほどの型をしっかりと使った攻守に長けた作品だと思います。
夏井先生も『うっかりホームランとしては、とんでもなく良く飛んだ』という風にビックリ唖然としていましたが、ここから東国原永世名人からライバル視されるとともに、注目の特待生候補となります。
2021年度 後半3度の挑戦
「炎帝戦」の後の挑戦で、真価が問われることとなった犬山さん。結果的には先に「色鉛筆」の査定で特待生になるも、俳句では再び「ムラっ気」が飛び出します。
2021年8月 3位・37点 | 血は細く指先紙で夏醒める ↓ 紙で切る指やその血に醒める夏 |
2021年10月 2位・70点 | 朝寒や唐揚げ渡す火傷の手 |
2022年1月 冬麗戦10位 | 箱の角亡き犬の毛や垂り雪 ↓ 亡き犬の毛が双六の箱の隅 |
段位のない人間として出場した「冬麗戦」の10位は健闘の部類ですし(東国原名人は犬山さんに勝てたことがタイトル戦優勝よりも嬉しかった模様)、2回目の才能アリ(平場査定)となった時も2位ですが手堅く70点を取っています。
そして才能ナシとはなったものの、37点という「伸びしろ」を感じさせる評価です。句の内容も過去の才能ナシと異なり比較的『俳句』っぽい着眼点だなーって感じました。
タイトル戦を優勝して以降、「俳句のタネ」(≒着眼点)の見つけ方のコツを掴み、主役とするべき「季語」を大切に軸にすることの重要性を掴んできたのかなと、そういう傾向を感じています。
2022年度:特待生昇格 → 特待生剥奪、そして再昇格!
2022年4月21日、一般出場者として挑戦し、こちらの句を詠んで堂々の72点1位。初挑戦から丸6年で悲願の特待生昇格を果たします。
『菜の花を切って美容院に電話』
文語体ではない平易な言葉で、『菜の花』という非常に鮮やかな植物の季語から始まり、『切って』という軽いフットワークで意味を分けると、後半は前半から想定できない飛び方をします。
因果関係があるのかないのかとグレーなほどの距離感の取り合わせは、力の抜き方と入れ方のバランスが非常に良かったと思います。炎帝戦の優勝が「フロック」ではないと言うかの様な2回連続才能アリでした。
しかし、特待生昇格の翌月(2022年5月)、気合十分で初の特待生昇格試験に挑んだ犬山さんに悲劇が襲います。
「時計」という兼題で詠んだこの句、読者が女性だと分かれば、あるいは「授乳」のための行為かと伝わるかも知れませんが、17音の文字面だけでは違った詠みも生まれてしまって……
『午後も片乳出したまま窓は初夏』
梅沢永世名人からは『変態じじい』の句かと思ったと言われてしまう始末。そして実際、夏井先生からは『1ランク降格』の査定が下され、史上3人目の特待生剥奪となってしまいました。
私も指摘を受けて振り返ってみると、確かに「母」とか「子」とかの要素を1文字入れるだけで、そうした誤読を避けることが出来た訳ですから、非常に勿体ないことをしたなと感じてしまいました。
しかし犬山さんは降格の翌月に、再昇格を目指して一般参加者として出演します。写真はキッチンカーが並ぶ緑豊かな広場のような場所。最下位でも凡人68点という非常にハイレベルな中で、二階堂さんと才能アリ1位を争い、2022年の最高得点である『75点』の評価を得て再昇格を決めます。その句が、
『喪服着てメロンソーダの列に居る』
でした。炎帝戦で詠んだ母が先日亡くなった実体験だそうで、スーパーで『メロンソーダ』を喪服姿で買って束の間の自分の時間を確保してホッとした様子を描いたとのこと。この非日常と日常を、黒と緑という鮮やかな対比を(意図して)描いたという点が技巧的で素晴らしかったです。
『ちゃんと修正できた。もう1回特待生で頑張りましょう。』という言葉を夏井先生から頂いて、俳句査定史上初の『特待生』再昇格(復帰)を果たしたのです。その後は、
と、タイトル戦で再び2位に入るアプセットで名人達を驚かせ、更にその翌月には降格の危険水域から離れられる5→4級昇格を果たし、『夏の犬山』が伸び伸びと作句できる環境が整います。しかし、秋9月に入ると一変してしまい、金秋戦予選は5位(最下位)→ふるさと戦も2府県とも最下位とまさかの3連続最下位に沈み、夏の勢いが削がれてしまった形で2022年を終えます。
To Be Continued…
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