「プレバト!!」俳句査定の歴代最低得点を振り返る(その①:2020年/史上初の3点誕生まで)

【はじめに】
2020年8月27日の「プレバト!!」では、俳句査定史上「最低」得点となる『3点』という評価の句が飛び出しました。この記事では、番組開始から「3点」の句が誕生するまで、即ち、2013~2020年の『歴代最低得点』の俳句を「ランキング形式」で振り返ります。

(↓)このnoteの記事をリニューアルしたものです。合わせてお読み下さい!

◎夏井先生、YouTubeでバッサリ『下手な句は、覚えることができない』

夏井先生は、自身のYouTubeチャンネルが始まった翌月に、こんな発言をしていました。

12分15秒過ぎあたり~
質問『夏井先生が記憶している中で一番下手な句は何ですか?』

しょうもない質問ですね(呆)

下手な句はね、下手であるという宿命のもと、覚えることが出来ない。……あの「プレバト!!」の最低点5点というのが4~5句ぐらいあるはずだから、自分で勝手に調べて、あ、これか、と思って下さい。

by 夏井いつき先生

当時はこの記事で後ほど触れる「3点」の句がなかった訳ですけど、メッセージは同じだと思います。夏井先生からすると、『下手な句は覚えることが出来ない』のだそうです。

ワースト3位:7点(1句)

番組当初は、80点台も飛び出していた「プレバト!!」ですが、得点を下の方に目を向けると、実は1桁は企画開始から約1年誕生していませんでした。番組史上初の「1桁得点」となったのが、ガレッジセールのゴリさんが披露したこちらの句でした。

(2014/11/03)『秋いろは山部(やぶ)が続いて蛇を出す』/ゴリ

日光・いろは坂の写真が兼題の回でした。これを仮に有季定型に則って読み解き始めますと、「秋」と「蛇(夏の季語)」で季重なり……にはなるんですが、そんなレベルではないでしょうか(^^;

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テクニック的には、『藪をつついて蛇を出す』という成句をもじったということになるのでしょうが、何せあの夏井先生が『伝わるものがほとんどない』と一刀両断されていたレベルの内容です。夏井先生の著書『ギャ句゛』にもなりきれていないような作品です(^^;

ちなみに、ゴリさんは、初挑戦こそ7点でしたが、その後は50点台の凡人査定にまで出世しています。

ワースト2位:5点(2020年までに5句)

ゴリさんの句から1年半後の2016年から後述の3点が出るまでの約4年間(2020年まで)、事実上の下限となっていたのが、これら「5点」の俳句たちです。早速みていきましょう。

(2016/05/19)『万緑の中連絡船は湯船かな』/博多華丸

兼題が『箱根登山鉄道』の写真だったので、おそらく『湯船』は箱根の温泉と、『遊覧船』は箱根登山鉄道や芦ノ湖の遊覧船と関係性のある要素なのだろうとは類推できるのですが……

夏井いつき先生は、「すべての単語の意味は分かるんですよ。全部の単語の意味が分かって、続けて読んでこんなに意味が分からない」と語り、句が何を言いたいかが分からない以上『添削不可能』とするしかないと諦観の表情でした。

(2016/07/21)『ドドド〜ン蚊、動き止まる空の花』/NON STYLE井上

NON STYLEの石田さんが特待生に昇格し、相方の井上裕介さんも、2度目の才能アリ72点・1位を『高尾山新緑歩むハイヒール』という俳句を獲得。コンビ揃っての特待生昇格も期待される中、披露をしたのがこの句でした。

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井上さんのキャラもあってのことかも知れませんが、自信満々に夏井先生に食って掛かった結果、史上最強級の毒舌が連発し、先生のイライラが最高潮に達して、思わず浜田さんが止めに入るほどでした。

  • 聴覚に焦点を絞って写真の中にないものを発想すると、言ってることは立派だが、よくこんなものが出てくるな!
  • ちゃんとしたテクニックがあってチャレンジしてくれる?
  • アンタみたいに、テクニックのかけらもない奴が、そんなことやるからこうなる!

と夏井先生は普段の冷静さを欠いた発言が続き、前回72点から史上最大級の「67点ダウン」を記録。これを最後に、NON STYLE井上さんは、番組(俳句査定)からお声が掛からなくなっています。

ちなみに、この句の井上さんの工夫が全て裏目に出た点をリストアップしますと、

  • 上五:ドドド~ン
    特待生候補と自負していた井上さんが「聴覚に焦点を絞る」と分かった(風な)ことを句の発表前に意気込んで語っておられた部分。確かに、文字だけの勝負である「俳句」において、視覚以外の五感を刺激する手法は有効に働くことも多いですが、これは……小学生の発想だったでしょうか。
  • 中七:蚊、動き止まる
    俳句に記号(約物)を使っていけないという決まりは無いのですが、よっぽどでなければ使わないのが無難です。そして「中八」を避けるべきとの考え方もあります。ただ、だからといって、この「蚊、動き止まる」という極めて説明的で散文的なフレーズが、効果的な表現かは微妙ですよね。
  • 下五:空の花
    極めて好意的に読めば、上五の「ドドド~ン」との合せ技で、『花火』かなと想像を膨らませる事は出来ます。しかしまずもって「蚊(夏の季語)」との堂々たる季重なりですし、「花火」を本来は主役としたいはずなのに、「空の花」と季語ではないフレーズでボカした結果、季語らしきものが「蚊」しかなくなってしまっています。

工夫に工夫を重ねた結果、「何を伝えたいのか分からない」ような作品になってしまう(仮にじっくり読み解けば伝わるかも知れないけど、そもそも第一印象でそこまで丁寧に扱おうと思えないパターン)ことが往々にしてあるので、特に中級者の皆さんは注意しましょう!

(2016/12/01)『30で足湯の隣人目が凍る』/佐藤二朗

お笑い芸人以外で初めて5点以下となったのが、【佐藤二朗】さんでした。『冬の足湯』が兼題の回で、横澤夏子さんが、『雪景色 白のセーターおそろだね』という句で4位ながら『10点』という低得点(ブービーとしては最低点)を叩き出し、更にそれを下回る得点の句として披露されました。

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この句で最も伝わらないのが、算用数字「30」が何を指しているのかという点です。

これ実は、身長180cmを超える大柄な佐藤二朗さんの、「足のサイズ」が30cmということを意味したかったのだそうです。確かに、「足のサイズが30cm」の方が隣に来たら、内心驚いて、目が凍る……のかも知れませんが、それを『30で』の上五で万人に伝えるのはほぼ無理筋かと思いました(^^;

(2017/12/14)『雪弾み芽と花の咲きスプリング』/岩永徹也

佐藤さんから約1年が経ち、4例目の『5点』の句が誕生しました。後の特待生の岩永徹也さんです。

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そのチャレンジ精神は初回から表れていた……のですが、夏井先生の評価は『5点』でした。私は流石にもう少しだけ上かなとも思ったんですけどね~

ひとまずは、『目の鼻の先』と『芽と花の咲き』が全てダブル・ミーニングであると共に、『弾み』と『スプリング(春、温泉)』も呼応させているという一句です。一方、夏井先生の評価の理由として、

  • 季語っぽいものが、「雪」、「芽(芽吹き)」、「花」、「咲き」、「スプリング」と多く見積もって5つほどあります。しかし、何かしら他の季語で表現できそうなことを17音を使って語る「季語の説明」に成っていて、『ダブル・ミーニング』を自慢したいだけの句になっている点。
  • 『雪弾み』という日本語の用法自体に違和感がある点(個人的には『スプリング(バネ)』ありきのチョイスだったんじゃないかとも思います)
  • 国語の授業で、短歌で『掛詞』というのを習うため、それが俳句でも効果的だと考えている初学者が多いですが、少なくともプレバト!!において、成功例は皆無な点。

夏井組長の言葉を借りると、『作者のやっている工夫はことごとく無駄な努力』だという評価でした。

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しかし、浜田さんが『アイツ、頭ええから、次来た時……、十分あるんですよ。』と語ると、実際に、その後、5点71点→70点→70点→72点』と4連続才能アリで特待生昇格を果たしています。

(2018/06/21)『夏を告ぐ紫隠して雪の下』/安東弘樹

1年に1回程度の頻度で誕生してきた『5点』俳句、平成最後の例となったのが、元TBSアナウンサーの安東弘樹さんの作品です。

夏井先生は、これまで『5点』の句は「添削不可能」としていたのですが、この句は添削しています。

(添削後)『夏告ぐる紫咲かせたる大地』

ワースト1位:3点(1句)

2019年度はどんなに悪くても2桁得点で、安東アナを最後に1桁得点は出ず(一部の低得点フェチな方はガッカリしていましたが、)才能ナシ0人の回も時折見られるなど、平場の参加者たちにおいても、『一定の水準が確保』されるようになってきたのかな、と2020年8月27日までは思っていました。

(2020/08/27)『レジ横は春夏秋冬ホットけない』/生見愛瑠

この日は「才能アリ3人」「才能ナシ2人」で凡人0人という両極端な回。しかも事前から次回予告等で発表されていた通り、『史上最低得点』が出るということで、コアな視聴者は待ち望んでいました。

画像17

この回で『3点』だったのは、初登場時が『凡人2位』で才能アリ候補とも目されていた【生見愛瑠】さんでした。【めるる】さんが詠んだ『レジ横は春夏秋冬ホットけない』は、番組史上の最低点を更新してしまう低評価でした。

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  • 上五:レジ横
    この回の兼題写真は、「コンビニのレジの横にあるホットスナックコーナー」でした。そういった意味で、ちょっと強引な言い回しかとは思いますが、上五はそこまでケチを付けるところは無かったかと思います。
  • 中七:春夏秋冬
    何より夏井先生が強く呆れていたのは、この中七の部分です。山口素堂の『目には青葉山ほととぎす初鰹』のように季語が3つ入っていても名句とされるものはあります。そういった意味で、季重なりがすべて悪い訳でもないのですが……
    季語を主役としたい「有季定型」をベースにする「プレバト!! の夏井先生」にとって、この「春夏秋冬」というフレーズは、季語が4つも入っていますし! 「季節」の感覚を大切にする俳句において、(季節感が失われた)現代社会の負の部分を表現してしまっています。
    「季節感を見つけにくい都市生活」においても、季語から季節感を見つけ出すのが有季定型俳句の営みであるので、『季節が変わっても同じ』ことと有季定型俳句は、そもそも相性が悪そうです。
    (まだ、都市生活で季節感を見つけにくいけれども、「こんな季語があった」という気づきを俳句にしたためれば、作品としては成立していたと思いますが^^;)
  • 下五:ホットけない
    このフレーズからは一定の「工夫」を感じますが、夏井先生の言葉を借りれば、ダジャレ』オチに成り下がってしまっています。上の句たちと比べても、有季定型の詩心とかけ離れていることから、従来の最低点「5点」よりも更に下の評価「3点」となったのではないかと考えます。
    もちろん、洒落が一律にダメではないのですが、相当ハードルが高くて難しいものだということは抑えておく必要があるのではないかと感じました。

夏井先生が番組内で言っていたフレーズを引用すれば、『よくこんなもん出す勇気がありましたね』に始まり、『季語に対する尊敬の念がかけらもない💢』と、「春夏秋冬」という言葉を俳句に織り込む事に対する怒りと呆れの感情が大きかった様です。

凡人57点の査定だった初挑戦の時に披露した『おろしたて光るサンダル夏の雨』という句についても、夏井先生は好意的に評価されていましたが、冷静になってみてみると、

「光るサンダル」という描写・表現に多少の違和感を覚えますし、「夏の雨」という季語もこれが最適解かというと微妙な感じがしてきます。そして、「サンダル」が季語なのかという発想(歳時記で確認するという作業)も、あまり無かったのではないかと想像できます。

番組の主となる「有季定型俳句」に対する理解が不十分で、半分「マグレ」での凡人査定が、2回目の挑戦でこうした作品を生むことに繋がったのかなとも思いました。

この次(約半年後)の回で、『肌荒れる悔やむ昨夜の推し忘れ』という句では、才能ナシだったものの35点と前回の10倍以上に大幅ジャンプアップ。夏井先生も成長に驚いていました。

【おわりに】筆者の思う隠れた共通点

実は、ここまで『1桁台』の点数に沈んだ方々の(隠れた)共通点として、『指摘されたことを十分に理解しきれていない』点がある様に思いました。せっかく夏井先生が(指導役として)問題点を挙げてくれているのに、それのどこが問題なの? といった雰囲気・感想が滲み出ている様に思うのです。

そして、添削されてその問題点が解消された時にも、『良くなったのは分かるけど、そんなに俺の句ダメだった?』みたく納得してない表情なのです。何が良くて、何が良くないかが満足に分かっていないうちは、全てが空回りの徒労に終わるでしょう。例えばスポーツの練習や受験勉強などについての努力が実を結ばないケースにも共通する部分ある様に思います。

この記事の楽しみ方は人それぞれですが、筆者個人としては、歴代ワーストの俳句そのものや、その句を詠んだ人を笑い者にすることが目的ではなく、むしろ、『反面教師』であり、『人の振り見て我が振り直せ』とすべきだと考えて寄稿しています。だって、今回紹介した俳句ほどは極端でなくても、大なり小なりこういうミスって誰しもしてしまいがちじゃあありませんか。

ぜひ、「プレバト!!」のゲーム性という観点から、低い得点が出たことを、バラエティ番組として楽しむことを否定せずには居つつも、一歩立ち止まって、似たような過ちに(知らず識らずのうちに)陥っていないかを、省みるキッカケとしていただければと思います。

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