【はじめに】
今日は『お天気歳時記』と題し、現代の初夏~仲夏の風物詩ともなっている「梅雨入り」について皆さんと一緒に見ていきたいと思います。
※ 以前、noteに記事を書いたのですが、今回は「梅雨入り」に絞った構成にしていこうと思います。
ウィキペディアで学ぶ「梅雨入り」について
「梅雨」について
梅雨(つゆ、ばいう)は、北海道と小笠原諸島を除く日本、朝鮮半島南部、中国の南部から長江流域にかけての沿海部、および台湾など、東アジアの広範囲においてみられる特有の気象現象で、5月から7月にかけて来る曇りや雨の多い期間のこと。雨季の一種である。
梅雨
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』( 以下省略 )
なるほど確かに、世界基準でみれば『雨季』の一種なのかも知れません。そういう発見がありますね。
東アジアの四季変化における梅雨
気候学的な季節変化を世界と比較したとき、東アジアでは春夏秋冬に梅雨を加えた五季、また日本に限るとさらに秋雨を加えた六季の変化がはっきりと表れる梅雨の時期が始まることを梅雨入りや入梅(にゅうばい)といい、社会通念上・気象学上は春の終わりであるとともに夏の始まり(初夏)とされる。なお、日本の雑節の1つに入梅(6月11日頃)があり、暦の上ではこの日を入梅とするが、これは水を必要とする田植えの時期の目安とされている。
( 同上 )
雑節「入梅」については後述しようと思いますが、気象庁の『梅雨入り』発表とは異なり、全国一律で日付が殆ど固定されている季節の節目が雑節としての「入梅」です。
気象庁が発表する「梅雨入り」について
日本では各地の地方気象台・気象庁が、数個の都府県をまとめた地域ごとに毎年梅雨入り・梅雨明けの発表をする(北海道を除く)。まず、梅雨入り・梅雨明けしたと思われるその日(休日の場合は、以降最初の平日)に「速報値」として発表が行われ、その発表に従って「梅雨入りしたとみられる」・「梅雨明けしたとみられる」と報道される。
その後、5月から8月の天候経過を総合的に検討し、毎年9月に最終的な梅雨の時期を「確定値」として発表する。その際、速報値での梅雨入り・梅雨明けの期日の修正が行われたり、最終的に「特定せず」という表現になることもある。一般に、南の地域ほど梅雨の到来は早く、沖縄は5月中旬から6月下旬、東北・北陸では6月下旬から7月下旬頃となるのが平均的である。
( 同上 )
地味なところですが、「休日の場合は、以降最初の平日」に発表されるという部分は今回初めて知りました。確かに土日に聞いた覚えはなかったかも知れません。
そして、各地域の「梅雨入り」の平年値(2020年代の基準値)は上の表のとおりです。俳句の歳時記的には、6月5~6日の『芒種』初日からが「仲夏」、それまでは「初夏」と夏を細分化することが多いのですが、ちょうどその狭間に平年値があり、『梅雨入り』という季語が、どちらの季節に属するかは年によって、また地域によっても印象が変わってきそうです。
ざっくり6月前半から1か月半程度が平年というのが全国的な傾向かも知れません。後ほど述べます。そして下記のとおり、早ければゴールデンウィーク付近、遅くても6月中には梅雨入りというのが全国的にみた極値ということになりそうです。
そして、『梅雨寒』の記事でも触れましたが、「梅雨」の季節のお天気には、様々な季語が設けられています。一方で、厳密には「梅雨入り【前】」な季語も幾つかあるので、使う際は注意が必要です。
梅雨の気象の特徴
梅雨入り前の5 – 6月ごろ、梅雨に似た天候がみられることがあり、これを走り梅雨(はしりづゆ)、梅雨の走り(つゆのはしり)、あるいは迎え梅雨(むかえづゆ)と呼ぶ。梅雨入り当初は比較的しとしととした雨が連続することが多い。梅雨の半ばには一旦天気が回復する期間が出現することがある。この期間のことを梅雨の中休み(なかやすみ)という。
( 同上 )
梅雨予想の目的
noteの記事にも書きましたが、ここ数年は特に7月上旬に「◯年7月豪雨」と呼ばれるような大水害が発生していて、特に西日本での『梅雨前線』の豪雨は厳しさを増してきています。気象庁の行う『梅雨入り』発表は、そうした災害への防災意識の高まりが第一義にはあるものと理解しておきましょう。
日本の気象庁が梅雨入り・梅雨明けの情報提供を始めたのは1955年ごろとされ、「お知らせ」として報道機関に連絡していた。気象情報として発表を始めたのは1986年になってからである。
梅雨の時期を発表することにより、長雨・豪雨という水害・土砂災害につながりやすい気象が頻発する時期としての「梅雨」を知らせることで防災意識を高める、多雨・高温多湿が長続きする「梅雨」の時期を知らせることで生活面・経済面での対策を容易にする、「梅雨」という一種の季節の開始・終了を知らせることで季節感を明確にする(春一番、木枯らし、初雪などの発表と同様の役割)といった効果が期待されている。
( 同上 )
だから言ってしまえば、防災の観点からすれば、若干日付がズレても、大水害のリスクが低い通常水準の雨であればそこまで重視されないのかも知れません。ここらへんは肌感覚との兼ね合いですからね。
ウィキペディアで学ぶ「入梅」について
一方、気象庁の「梅雨入り」が大正義になった昭和以降、その存在感が薄らいでしまったのが、日本で親しまれてきた雑節の「入梅」です。新暦6月11日頃という特定の日付を指すイベントになります。
入梅(にゅうばい、ついり、つゆいり)は、梅雨入りの時期に設定された雑節である。現在の日本では、太陽黄経が80°の時またはその日である。新暦(グレゴリオ暦)で6月11日ごろ。
入梅
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
俳句の世界では音数の調整などで用いられ、厳密に『梅雨入り』と区別することの方が稀ですが、日常会話においては「梅雨入り」のことを漢語の「入梅」で言うことはめったにないと思われます。
季語「梅雨入り/入梅」の例句紹介
ここからは、俳句歳時記などに収録されている、季語「梅雨入り/入梅」の例句を紹介していきます。
見出し季語:入梅【にゆうばい・にふばい】[時候]《仲》
角川俳句大歳時記(夏)より
傍題:梅雨の入り、梅雨に入る、梅雨入(つゆいり/ついり)、梅雨始まる、梅雨めく
まずは「一物仕立て」に近いストレートな傑作句からご紹介します。
- 『樹も草もしづかにて梅雨はじまりぬ』/日野草城「旦暮」
- 『吹く風に花の色ある梅雨入りかな』 /井上康明「四方」
そして、地名などの固有名詞を自然/人工物問わず詠み込んだ句も本当にドラマチックです。
- 『奥信濃蒼茫として梅雨に入る』/渡部抱朴子「地籟」
- 『梅雨に入る前の一荒れ熊野灘』/中瀬喜陽(かつらぎ)
- 『ニコライの鐘の音色も梅雨に入る』/茂木連葉子「洗ひ馬」
- 『焚火してもてなされたるついりかな』/白雄「白雄句集」
- 『勾玉の深みどりなる梅雨入かな』/秋篠光広(朝鳥)
- 『白線は道路を逸れず梅雨に入る』/細谷ふみを(鷹)
上の3句はどちらかというと「取り合わせ」の妙が光ります。「梅雨入り」にどんな色を思うかは人それぞれですが、「焚火の赤・オレンジ」、「勾玉の深緑」、「白線の白とアスファルトの灰色」が全て見事に呼応してくるお手本のような名句ばかりです。
そして「プレバト!!」俳句からも、幾つかの「梅雨入り/入梅」の句(添削後を含む)を紹介します。
- 『後毛の柔く撓ひて梅雨に入る』
→『後毛の撓ひて梅雨に入る街角』/武井壮 - 『入梅や息吹く命のいとしさよ』
→『入梅や水たくわえて息吹く木々』/床嶋佳子 - 『集め汁忘れ去られる片頭痛』
→『味噌汁は熱し入梅の片頭痛』/二階堂高嗣(Kis-My-Ft2) - 『花やぎを増して花屋の梅雨入りかな』
→『花やぎの殊に花屋の梅雨入りかな』/東国原英夫
まあ二階堂さんの句は、元々は『集め汁』が季語だった訳ですが(^^ いずれもオシャレな句が揃っているという印象です。
ここ10年の関東の『梅雨入り』判断について
下の表は、2011年以降の「関東甲信地方の梅雨入りの日(確定値)」と気象官署『東京』における前後7日間の天気(ざっくり)を示したものです。大体の傾向把握にご活用ください。
年 | 前7日 | 梅雨入り | 後7日 |
---|---|---|---|
2011 | ○○●●●◎● | 05/27 | ●●●◎◎●◎ |
2012 | ◎◎◎◎●◎● | 06/09 | ●●●●○◎● |
2013 | ○○○◎●○◎ | 06/10 | ●●●●◎●◎ |
2014 | ○○○○◎◎◎ | 06/05 | ●●●●●●● |
2015 | ○◎●◎◎◎◎ | 06/03 | ○●●◎●◎◎ |
2016 | ◎●◎◎○○◎ | 06/05 | ◎◎◎●○◎◎ |
2017 | ◎●○○○●○ | 06/07 | ◎◎◎◎◎●◎ |
2018 | ●◎○○○○◎ | 06/06 | ◎◎◎●●◎○ |
2019 | ◎◎◎◎◎◎◎ | 06/07 | ◎●●●◎○◎ |
2020 | ◎◎●◎○◎○ | 06/11 | ●●●◎○○● |
2021 | ◎◎○○◎◎● | 06/14 | ●●●◎◎●● |
2022 |
ここ10年は6月前半に「梅雨入り」が発表されていて、6月上旬の梅雨入りがここ四半世紀あまりでは9割近くに上っています。そして、ここ最近の傾向としては、「雨の日が少なかった初夏の終わり」を過ぎて、「曇りか雨が続きそう」な転換点の初日に発表されることが多い印象です。
もちろん地域差はありますが、「東京」のような判断が下されることが全国的に多い印象があります。
そして、上で「速報値と確定値」という話題を取り上げましたが、tenki.jp さんがまとめ記事を作っておられました。2021年には約1か月も梅雨入りが速報値より遅くなったケースもありましたので、「速報値」ばかりが注目されますが、どうぞ秋の「確定値の発表」にも注目していただけたらと思います。
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