【はじめに】
この記事では、「コスモス」(+「秋桜」)という秋の植物の季語について、俳句歳時記の例句10句や「プレバト!!」の歴史に残るような傑作3句と共に学んでいきたく思います。作句する際の注意点も纏めていますので、ぜひ俳句を作る方も見るだけという方も最後まで読んでいってください!
「コスモス」の基本情報 と 俳句で使う際の注意点
語源とギャラリーについても画像引用しておきますが、「コスモス畑」は秋を感じる素敵な光景です。
少し長いので、補足を加えつつポイントを纏めておきました。抑えておきたいのは以下の3点です。
- 日本では「明治時代」に渡来した(実は比較的)新しい植物
- 秋(仲秋)の植物の季語として比較的早く定着
- 「秋桜」と書いて「コスモス」と読むのは、昭和後期 秋桜 (山口百恵の曲)の影響が強い印象
これらの予備知識を共有した上で、誤解なきよう注意点も纏めておきます。
- 日本に渡来したのが「明治時代」頃なので、江戸時代以前の作句は認められない
- カタカナ語が許容されにくかったこともあった20世紀の俳句界においても、カタカナ書きの「コスモス」は比較的抵抗感が少なく用いられた
- (↑)それは、コスモスが外来の植物だという前提が当時の人々に共有されていたから
- 和名として「オオハルシャギク」が考案されたが、種の名前として以外はあまり定着せず
- また、秋桜(あきざくら)は音数も少なくピッタリ5音のため俳句でも下五に据えることが多いが、両者を混同することは俳句では許容されないことが多い(特に「プレバト!!」において)
最後の部分が少しわかりにくいかと思うので補足しておくと、上五で「コスモス」+『や』という切れ字を使いたい時に、『コスモスや』という形はOKだけれども、『秋桜や』と読ませるのを嫌う俳人も、結構居るという点は注意が必要そうです。
もちろん、俳句界全体の共通ルールという訳ではなく、歳時記にも「秋桜」と書いて「コスモス」と読ませる句もありましたので、TPOをわきまえる必要はありそうです。例えば、『コスモス』と『秋桜(あきざくら)』は別物として添削している印象が強いのが、「プレバト!!」の夏井いつき先生。何度かそういった添削を示していたような記憶があります。
歳時記にみる「コスモス」の例句10句 と 作句の特徴
では、俳句歳時記に掲載されているような中から、個人的に厳選した10句を紹介していきます。古くは高浜虚子や水原秋桜子、杉田久女といった俳人の作が知られますが、反対に大正・昭和にも活躍した世代が中心だということを考えると、100年そこそこといった感じなのかも知れません。
- 『コスモスの花あそびをる虚空かな』/高浜虚子
- 『コスモスの影をとどめず風吹けり』/石原舟月
- 『死とはただ居なくなること秋ざくら』/不破博
- 『コスモスのまだ触れ合はぬ花の数』/石田勝彦
- 『コスモスの揺れ返すとき色乱れ』/稲畑汀子
- 『乱るるといふ美しさ秋桜』/伊藤雅美
- 『コスモスも包帯の子も風の中』/有泉七種
- 『逆光の少女のうぶ毛秋ざくら』/鈴木岑夫
- 『コスモスや粗く抉れし富士の傷』/赤木貞夫
- 『シーソーの父空にあり秋桜』/中野真奈美
句を見ての最大の特徴は、「風」だと思います。2・7句目には「風」という漢字が入っていますが、4~6句目のような情景をもたらしたのも秋の風です。
また「コスモス」としか書いていないのに、4・7・9句目あたりは、1本ではなく『コスモス畑』が広がっている情景が脳裏に浮かびます。7・9・10句目は自分以外の人物が登場しますが、これも暗さは少なく秋の明るい空の下でのイメージが強いのも特徴です。これらは本意に含まれるものでしょう。
そして以上を総合すると、他の植物に比べて「一物仕立て」の要素が強い句が多くなりがちなのも特徴かも知れません。「風」も『コスモス』という季語の本意に含まれていると拡大解釈すれば、それこそ春の「桜」などのように「一物仕立て」に挑みたくなりやすい季語なのかも知れません。
「プレバト!!」の歴史に残るコスモス俳句3句
「プレバト!!」では番組の始まった初期に2年続けて「コスモス」が兼題となった時期があります。2015年9月17日と2016年9月29日です。東国原さんが特待生だった時代と考えると隔世の感がありますが、この2回で、プレバト!! の歴史に残る様な名勝負、名句が誕生しているので振り返りましょう。
①2015年:おっちゃんを1点差下した、友利新さん73点
まだ特待生制度がなく、一般参加者として土付かずの『才能アリ』を続けて“天狗”になっていた(?)梅沢富美男(後の特別永世名人)。そんなおっちゃんを『井の中の蛙』だと煽った刺客が、医師・タレントとして活躍する【友利新】さんでした。
この両者が残り1位の発表…… 余裕の表情で構えていたおっちゃんではなく、友利さんが1位として呼ばれ、自身の句『たいくつなコスモス風を揺すりけり』が披露され夏井先生からも添削ナシの高評価を得ると、それなのに1位でないことに納得が行かず吠えて不服を申し立てるおっちゃん。しかし、
1位73点『自転車やコスモスの波風となる』/友利新
1位となった友利さんの俳句を見たら負けを認めざるをえなかったおっちゃん。「コスモス」と「風」という言葉は同じでも、『自転車』という季語以外の単語を上五に置き、下五で「コスモスの波 風となる」と展開・描写したのはお見事の一言でした。
おっちゃんが非特待生に力負けをするのは極めて稀であり、そういった意味で友利さんは時期が違えばおそらく特待生クラスの力があったでしょうし、おっちゃんを初挑戦で下したのは、「プレバト!!」に残る名勝負だったというふうに感じます。
②2016年:スーパールーキーことフルポン村上、75点デビュー!
今や永世名人となったフルーツポンチ村上さん。当初は高学歴芸人枠でこそあったものの、あまり注目されない中での初挑戦でした。2016年9月29日の放送回で2位に5点差を付けての衝撃デビューも、まだ『まぐれ』の可能性もあったためか(夏井先生以外は)半信半疑といった具合で取り上げていた様も印象的。しかし、句は初回から『詩人』の詩心を持っていたなぁと感じますね(↓)
1位75点『コスモスや女子を名字でよぶ男子』/村上健志
今よりかは75点が出やすかったうえ、この次の回で近年では最後となる「78点(マスクの句)」を叩き出し特待生にスピード出世したため、どうしても初回のこの句の影が薄くなっている感は否めません。
しかし『女子を名字でよぶ男子』という12音のフレーズに取り合わせたのが「コスモス」だという段階で、“並の人間ではない”ことが窺い知れます。しれっと「よぶ」を平仮名にする事で年代感をアピールしたりするのも絶妙でした。
③2016年:東国原さん、再び特待生2級へ
そんな回に唯一の特待生として出演していたのが、こちらも後に永世名人となる東国原英夫さん。まだ名人にもなっていない特待生3級でした。
当時の規定で一発で特待生昇格を決めるも、降格を2度経験した東国原さん。2016年9月1日(当月上旬)には2級から3級に降格してしまい、失意の中、不退転の覚悟で挑んだのがこの句(↓)。
3→2級『大拍手空舞うコスモスのブーケ』/東国原英夫
前述の友利さんの句と同じく、「大拍手」という非季語を上五に据え、残りの12音でワンフレーズを作るという中級者のワザ。しかも単なるコスモスではなく、「コスモスのブーケ」とすることで、何故、「大拍手」が鳴っていたのかから始まる謎解きの種明かしがされるような構成となっています。
加えて、「大拍手が空を舞う」とも「空を舞うコスモスのブーケ」とも詠めるダブルミーニングなども夏井先生からは高く評価されており、この昇格で2級に返り咲いたことを大きく喜んでいました。
上に述べた「コスモス」という季語の本意と思われた『コスモス畑』や『風』といった概念を打ち崩す「コスモス」の句は、東国原さんの発想の飛躍が成功した初期の傑作だったように思います。
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