旧震度「阿蘇山」(熊本県南阿蘇村中松)

【はじめに】
この記事では、熊本県の気象官署「阿蘇山(阿蘇山地震火山観測施設)」で観測された過去の強烈な揺れをまとめていきます。

気象官署「阿蘇山」について

気象官署「阿蘇山/南阿蘇」は、昭和初頭に火山研究所/観測所として発足した高度1,000mを超えるところでの観測点です。気象観測は2017年12月11日に終了しましたが、「阿蘇山地震火山観測施設」として観測を続けてきました。

南阿蘇鉄道高森線 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 より

クイズ好きにはお馴染みの長い駅名「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」の隣にあるのが「中松駅」。気象官署「阿蘇山」は、震度情報などでは『南阿蘇村中松』として表示されます。

では、その観測点での過去の強烈な揺れを気象庁の「震度データベース検索」でまとめていきます。

震度5以上:8回(1933・1975・2016年)

活発な火山活動が見られる「阿蘇山」ですが、南阿蘇の気象官署で「震度5以上」を観測したのは、100年近い観測の歴史の中で8回です。年次でいうと3つの時期に集中しています。

地震の発生日時震央地名深さ最大震度「阿蘇山」
1933/02/06 16:17:03.1熊本県阿蘇地方11 km4.4震度5震度5
1933/02/07 10:27:35.1熊本県阿蘇地方0 km4.4震度5震度5
1975/01/23 23:19:14.7熊本県阿蘇地方0 km6.1震度5震度5
2016/04/16 01:25:05.4熊本県熊本地方12 km7.3震度7震度6弱
2016/04/16 03:03:10.7熊本県阿蘇地方7 km5.9震度5強震度5強
2016/04/16 03:09:29.8熊本県阿蘇地方10 km4.2震度5弱震度5弱
2016/04/16 03:55:53.0熊本県阿蘇地方11 km5.8震度6強震度5強
2016/04/18 20:41:57.9熊本県阿蘇地方9 km5.8震度5強震度5弱
(出典)気象庁 震度データベース検索
・地震の発生日時 : 1919/01/01 00:00 ~ 2019/12/31 23:59
・観測された震度 : 南阿蘇村中松 で 震度5弱以上 を観測
・検索結果地震数 : 8 地震 (「地震の発生日時の古い順」で検索)

1~2例目:1933年2月(M4.4)

1・2例目は、1933年2月にM4.4の小規模地震が2度起きた際です。2日続けて「震度5(強震)」を観測しています。観測が始まって数年というタイミングです。(以下、Wikipedia「阿蘇山」より)

  • 1932年(昭和7年) 空振のため阿蘇山測候所窓ガラス破損。12月18日火口付近で負傷者13名。
  • 1933年(昭和8年) 第二、第一火口の活動活発化。直径1m近い赤熱噴石が高さ、水平距離とも数百m飛散。

震源の位置は、ほぼ2016年の「熊本地震」での阿蘇山周辺の地震活動と近い位置。2度の地震では、「熊本」で震度2を観測した以外の地点は無感であり、局所的に強い揺れとなりました。

3例目:1975年1月(M6.1)

3例目は、阿蘇山の反対側というか、大分県の県境付近、「阿蘇山」の北北東を震源として起きた地震です。やはりここでも火山活動に伴ったものとなっています。(以下、Wikipedia「阿蘇山」より)

  • 1975年(昭和50年)1〜6月。前年8月から噴火断続、火口周辺に降灰。1月下旬に地震群発、震源は阿蘇カルデラ北部、最大地震は1月23日23:19、M6.1、阿蘇山測候所で震度5。
(出典)気象庁 震度データベース検索 > https://www.data.jma.go.jp/svd/eqdb/data/shindo/index.html#19750123231914

そして、Wikipediaでは、「阿蘇地震」の一つとして以下の記述があります。極めて活発な地震活動だったことが、この記述からも分かります。(SNSがあったら、『阿蘇カルデラ・破局噴火か?』などと大騒ぎをしていそうで別の意味で怖いです)

1975年1月、阿蘇山外輪山北東部付近を震央とする微弱な地震が20日から継続する中、22日13時40分M5.5の前震が起こり、翌23日23時19分にM6.1の本震が発生、その後もM5前後の余震が続いた。

前震では、阿蘇山測候所で震度4を観測。本震では、阿蘇山測候所で震度5を観測、震央に最も近い一の宮町手野地区(現阿蘇市一の宮町手野)および産山村田尻地区で震度6程度と推定された。

熊本県では、負傷者10人、道路損壊12か所 、山崩れ・がけ崩れ15か所、建物全壊16棟・半壊17棟・一部破損181棟などの被害があり、特に一の宮町手野地区に集中した。産山村の九州横断自動車道ではアスファルトが盛り上がり亀裂が生じた。

大分県でも、道路損壊1か所 、山崩れ・がけ崩れ7か所、建物一部破損4棟などの被害が報告された。

初動発震機構解は南北に張力軸を持つ横ずれ成分含む正断層であると推定されている。

約3か月後の4月21日、約20㎞北東でM6.4の大分県中部地震が発生した。

阿蘇地震 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 より

この1975年4月に起きる「大分県中部地震」は、震源近くでは家屋の殆どが全壊をしていて、一部研究では当時の階級で『震度7(家屋の倒壊が30%以上に及び)』に合致していたとするものもあります。

4~8例:2016年4月(最大M7.3)

40年置きのような形で「震度5(強震)」を観測することとなった4例目からは2016年「熊本地震」による一連の地震活動です。

4月14日に1回目の震度7を観測したM6.5の地震(本記事では「前震」)では、熊本市から益城町の辺りに限定されていましたが、4月16日に2回目の震度7を観測したM7.3の地震(本記事では「本震」)では、益城町のあたりから飛び飛びのような形で震源域が存在し、そのうちの一つが「阿蘇山」周辺となりました。

File:Epicenter of 2016 Kumamoto earthquakes.png
File:Epicenter of 2016 Kumamoto earthquakes.png
出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)

九州地方では明治以降の観測で最大級となった「熊本地震」では、「×印」こそ阿蘇山からかなり南西に打たれていますが、断層の破壊域をみれば、ほぼ直下で起きた地震であり、気象官署「阿蘇山」にとっても、これほどまでの大規模地震は初めてということになったかと思います。

(出典)気象庁 震度データベース検索 > https://www.data.jma.go.jp/svd/eqdb/data/shindo/index.html#20160416012505

以下、一連活動で「最大震度6弱以上」もしくは「中松で5弱以上」を観測した地震の『南阿蘇』での強震データを表にしました。

発 生 日 時 震央最大阿蘇計測3成分合成(南北-東西-上下)
4/14 21:26熊本地方3.793.6gal(085-072-060)
22:07 〃6弱3.153.3gal(039-045-025)
4/15 00:03 〃6強3.033.1gal(023-031-016)
4/16 01:25 〃6弱5.9855.0gal(795-607-653)
01:45 〃6弱4.4236.2gal(168-183-091)
03:03阿蘇地方5強5強5.0375.0gal(323-339-182)
03:09 〃5弱5弱-.-(-)
03:55 〃6弱5強5.0357.3gal(246-298-133)
09:48熊本地方6弱3.694.8gal(065-089-063)
4/18 20:41阿蘇地方5強5弱4.5249.3gal(184-187-078)
出典は「阿蘇」の欄に示したリンク先より

本震までは、震度3台で、ひょっとすると『対岸の火事』に思えたかも知れませんが、本震以降、特に活発な領域が阿蘇地方に移った午前3時事台には、産山村などを中心に強烈な地震が頻発しました。

また、1時25分の本震での揺れは、最大震度6弱ながら計測震度「5.9」とほぼ震度6強に近い揺れであると共に、加速度は各成分が600以上、3成分合成で855.0galという強烈なものでした。

気象庁が記者会見で毎回同じような表現をする注意文言の背景には、こうして震源位置の拡大や変遷によって最初の地震を上回る揺れが観測されることもある事例があるのです。

震度4以下の年代別回数の状況

最後に参考として、気象官署「阿蘇山」での年代別の回数を表にしてみました。こちらです。

期間震度1震度2震度3震度45弱5強6弱合計
1920年代0033
1930年代73281512119
1940年代22184145
1950年代2322247
1960年代35292369
1970年代8739661139
1980年代2374236
1990年代559468
2000年代5610571
2010年代5112067416221812
合計885368119295211409
(出典)気象庁 震度データベース検索
・地震の発生日時 : 1920/01/01 00:00 ~ 2019/12/31 23:59
・観測された震度 : 南阿蘇村中松 で 震度1以上 を観測
・地震回数の集計 : 年代別回数

有感地震の総回数が3桁に達しているのは、強震を観測した時期(1930・70・2010年代)と合致します。阿蘇山の地震活動が活発だった時期とも重なります。

その他は数十回で推移していて、例えば、1987年4月から2016年3月までの約30年間は、震度4以上が1回も発生していませんでした。直近でも、2017年7月3日から2021年12月末までの約4年半は、震度3以上が発生せず、熊本地震の翌年としては一気に活動が低調になったといえます。

こうして多い時期、少ない時期がありますので、再び活発化したときに不必要に慌てないよう、日頃からの備えをよろしくお願いします。

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