競馬歳時記【7月5週】「アイビスサマーダッシュ」

【はじめに】
重賞競走の歴史を振り返りながら季節の移ろいを感じる「競馬歳時記」。今回は「アイビスサマーダッシュ」の歴史をWikipediaと共に振り返っていきましょう。

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アイビスサマーダッシュは、日本中央競馬会 (JRA) が新潟競馬場で施行する中央競馬重賞競走 (GIII) である。

競走名のアイビス (Ibis) は、新潟県の県鳥トキの英称。新潟競馬場のスタンドにも「アイビススタンド」の名称で使用されている。

アイビスサマーダッシュ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』( 以下略 )

前史:中央競馬における短い距離の重賞競走

「アイビスサマーダッシュ」は2001年に創設された21世紀最初期の重賞競走で、まさに新時代の到来を予感させるレースでした。新設で左回りとなった新潟競馬場の名物重賞であり、中央競馬では初めて直線1000mで行われる重賞競走だったからです。

中央競馬で唯一、直線コースのみで施行される重賞競走。2001年に新潟競馬場のコース改修が行われた際に新設された、芝直線1000メートルのコースを使用して行われる。

( 同上 )

ちなみに、中央競馬ではこの1000mが最短距離となっていますが、地方競馬では「地方競馬スーパースプリントシリーズ」の超短距離な競走が設定されています。

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そして、海外に目を向ければ、直線コースでの重賞は決して珍しくなく、それこそGI競走もあります。最も著名なレースの一つが「英2000ギニーステークス」でしょう。日本の「皐月賞」のモデルとなったレースで、イギリス三冠の第1戦のマイル戦が、「ニューマーケット競馬場」では直線のみで開催可能なのです。


そして、中央競馬(前身を含む)を振り返った時に、5ハロンに相当する1000mの古馬重賞は下限とも言えるものなのです。

日本での近代競馬は、軍馬育成の名目で創設された。このため、競走馬には長距離かつ高負荷を与えて選抜することが求められてきた。戦後まもない時期には馬不足から一時的にこうした制約が廃されたが、後に競走距離設定基準が設けられ、競走馬の適性に応じつつ、競走馬の生産育成を誘導する施策が取られた。これは、馬の成長とともに徐々に距離を伸ばしていくことを目的に設定されている。

2013年現在の競馬法施行令(1948年に制定されたもの)では、平地競走は600メートル以上で行うこととされ、最低距離だけが定められている。日本中央競馬会(JRA)の競馬施行規程では、2歳馬は800メートル以上、3歳以上の馬は1000メートル以上とされている。

距離 (競馬)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

現代における法令に基づけば、1000メートルが古馬の下限距離であり、実質的な最短距離でのレースの重賞という位置づけになります。そして、直線距離に限らず、20世紀に目を向けてみると、

時期距離主な重賞名
1939~19441800m中山四歳牝馬特別(桜花賞)
1947~19481600m桜花賞
1949~19581100m朝日杯3歳S
1959~19611200m朝日杯3歳S
1962~1964D1200mきさらぎ賞
1965~19661200m京成杯3歳S
1967~20001200mスプリンターズS
2001~1000mアイビスサマーダッシュ

1939年に現「桜花賞」が創設された当時は、2000m未満で開催される現3歳限定重賞1冠目(皐月賞も1800~1850mで開催)は新鮮だったと思われます。1949年に「朝日杯3歳S」が創設されると、昭和の中頃までは1200m以下での開催であり、20世紀における最短距離の重賞だったかと思われます。

1967年に「スプリンターズS」が創設されると、スプリント路線が充実に一途を辿っていくこととなりますが、あくまで最短距離は1200mという時期が30年以上続いていました。そうした意味で、約半世紀ぶりの1200m未満の重賞であった「アイビスサマーダッシュ」はエポックメイキングだったのです。

但し、明治時代以前にまで遡れば、常設の競馬場がなかった頃は物理的な制約から開催距離はマチマチでしたし、今の様に軽馬(サラブレッドなど)一辺倒な時代ではもちろんなかったですから、一概に昔の方が長距離重視だったとも言い切れません。

事実、横浜競馬場(根岸)で行われていた帝室御賞典(に数えられるレースを含む)では、1896年秋の開催が6ハロンでしたし、1902年秋の開催は5ハロンだったと伝わります。

そのほか、各地の競馬倶楽部で開催されていた時代の帝室御賞典も、基本的には今でいう所の中距離(1800~2000m付近)が中心だったことを思うと、短距離の重賞競走が全く無かった訳ではない点に注意が必要かも知れません。

2000年代:21世紀を感じさせる重賞として創設

重賞レースは短くても1000m超のレースが長く続いてきた中央競馬において、1000mの重賞レースを設置することとなったのが、2001年のことでした。

前述のとおり、新設の新潟競馬場の名物レースとなることを期待して企画されたレースであり、夏競馬の一つのGIIIではあるもののその盛り上げっぷりはGII以上のものがあったかも知れません。

本競走が施行される直線コースは他競馬場の周回コースの芝1000メートルに比べ速いタイムが出やすく、2001年に中央競馬史上初めて1ハロン10秒を切るラップタイムが本競走を含む3競走で記録され、2002年に本競走で優勝したカルストンライトオの走破タイム(53秒7)は芝1000メートルのJRAレコードとなっている。この時の平均速度は 時速 67.0 キロメートル に相当する。

アイビスサマーダッシュ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

特に注目されることとなったのは、その走破タイムです。第1回は53秒9、第2回は53秒7(結果的に不滅の大レコード)という衝撃の5ハロン53秒台での決着は、従来の常識を覆すような結果でした。

現代でも直線1000mを代表する存在として知られ、更に距離を克服してGI「スプリンターズS」を制覇している【カルストンライトオ】は、20年近く経った現代において更にその凄さが際立っています。

本レースを2勝したのは上述のカルストンライトオが最初で、史上初の連覇を達成したのが2008・09年のカノヤザクラ(3連覇を目指した2010年は予後不良)。結局、直線1000mへの適正が欠かせないレースであることは早くから認知されていました。

須田鷹雄によれば、周回コースを走る馬の影響で芝が傷みやすい内枠よりも芝のコンディションの良い外枠の方が有利な傾向があるというのが競馬ファンの間で常識になっているという。

( 同上 )

また、2006年から2009年にかけて、4年連続で7・8枠の馬が勝利したあたりから外枠有利というのが競馬ファンの間で常識となり始め、レースも創設数年経ったところから各馬が一斉に外を目指すのが常態化するようになりました。(初回から直線最後は各馬外ラチに向かって走っていきましたが。)

2010年代:牝馬7連勝、レコードタイム塗り替えれず

競馬のよく知られたアノマリー(格言)として、「夏は牝馬」というものがありますが、それを実際に体現することとなったのが「アイビスサマーダッシュ」でしょう。2005年から2011年にかけては、枠や斤量の有利不利はあるにしても、牝馬が7連勝しています。これは尋常ではありません。

牡馬・牝馬混合戦ではあるが、牝馬の勝率が良く、2020年までに開催された全20回中、牡馬の優勝が7回(6頭)に対し、牝馬の優勝は13回(11頭)を数える。

なお、直近10年(2011年~2020年)において牝馬の勝率は五分五分となっているが、2005年~2011年にかけて牝馬が7連勝としており、これはJRAの牝馬限定戦ではない重賞競走における牝馬の最多連勝記録である。

( 同上 )

そして、2011年からは1番人気の活躍が当たり前となります。2010年までの10年間ではカルストンライトオの1勝しかなかった1番人気が、2013年からは4連勝を果たすなどトレンドが変わりました。

ある種、アイビスサマーダッシュを始めとする新潟直線1000mの馬券攻略法みたいなものが経験則として定着してきた結果なのかも知れませんが、やはり1200m以上と直線1000m戦での適正、実績の差はあるのかなと思いますね。

2020年代:バカラクイーンの最内3着激走

そうした経験則が積み重なってきた第20回(2021年)、常識はずれの激走が大きな話題を呼びます。

まさかの内ラチぴったりを駆け抜けてバカラクイーン3着【アイビスサマーダッシュ2021】|カンテレ競馬【公式】

1・2番人気で2桁番枠の1着オールアットワンス、2着ライオンボスが好走するのは普段どおりなのですが、あわやイン突きが成功するか!? と驚きを持って見られたのが、最内1枠1番で14番人気だった【バカラクイーン】。

菅原明良ジョッキーが最内枠で勝負するならこれしかない! と腹を括ったのが見事に決まり、4着以下に2馬身を付けての3着粘り込みは「アイビスサマーダッシュ」史上に残る快挙だったといえます。

レースR勝ち馬斤量
2016106.00ベルカント55kg
2017104.00ラインミーティア56kg
2018107.75ダイメイプリンセス54kg
2019103.00ライオンボス56kg
2020105.00ジョーカナチャン54kg
2021103.25オールアットワンス51kg
2022

「GIIIの目安:105ポンド」付近で推移しています。ハンデ戦であるだけでなく、コース条件が特殊で他に1000mの重賞がなく、秋以降レーティングを上げられる馬も限られる事情があろうかと思います。

それでも、2016年のベルカントや2018年のダイメイプリンセスは次走の北九州記念でも2着と健闘をしていますから、そのスピードにスタミナが付いてくれば、他の短距離路線でも活躍できる可能性があることを期待したいところです。

もちろん1000mのスペシャリストにとっては、年に1度の大舞台(いわば1000mホースにとってはGIに当たる)だと思えば、陣営の気合の入れっぷりと枠順や展開が合えば一発もあり得ます。

これが約1分弱に凝縮されている、そう考えると更に面白さが増してくるかも知れません。中央競馬で最短の距離(1000m)の年に1度のお祭りを、ぜひご堪能いただければと思います。

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