【春・天文】季語「春の雪」(牡丹雪、桜隠し)

【はじめに】
この記事では、春の天文の季語である『春の雪』とその傍題について纏めていきます。

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ウィキペディアに学ぶ「春の雪」

ウィキペディアには「春の雪」として立項はされていませんが、『春』の項目に雪に関する記述があるので、そちらを引用して見ていきましょう。

気候
春は、寒いから気温が上がり始め、朝晩はまだ肌寒さがあるけれど、日中が次第に暖かくなる時期。と並んで一年の中では最も気候の良い穏やかな季節とも言われる。が溶け、植物を出す時期である。寒さが次第に緩み、草木が萌え芽ぐみ、花々がつぼみをつけ、満開になる。日が永くなり、地中の虫が動き始める。桜が散り、次第に木々の緑が濃さを増し、暑い日が増え、やがて終わりを迎える。

の寒さが和らぐことによって、春になると一般に生物の活動が活発になる。また、豪雪地帯での雪解け水は貴重な水資源であり、日本においては田植えと密接な関連がある。その一方で地域によっては雪崩や融雪洪水をもたらす場合もある。
この他、発達した低気圧が太平洋側を通り且つ気温が低いと太平洋側に大雪(春の大雪)をもたらし、日本海側を通ると春一番と呼ばれる南風が吹くことでも知られている。

日本においては特にの開花が文化と密接な関わりをもち、桜の開花宣言が地域ごとに出され、桜前線が北上する。


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

俳句歳時記における「春」というのは、立春の2月上旬から5月上旬(立夏の前日)までの3か月間を指します。広く捉えれば2月上旬に降る雪も「春の雪」に分類されるのでしょうが、やはりこの季語の背景には『春も進んで暖かくなってきたのに、季節が逆戻りしたかの様に、時ならぬ雪が降ってきた』という雰囲気が感じられます。

関東(首都圏)では寧ろ南岸低気圧による大雪は2月以降に降ることが多いですし、北国であれば2月に雪が降るのは当たり前です。そうすると、どちらかといえば3月から4月にかけてなど、春の後半に降る雪を指す意味合いが実質的には強いのかなとも思いました。

俳句歳時記やプレバト!! にみる「春の雪」の例句

古くから雅なものとして「春の雪」は多くの俳句に詠まれてきました。ここからは、時代と共に例句を見ていきたいと思います。

  • 『湯屋まではぬれて行きけり春の雪』/小西来山
  • 『瘠せ埋めになほ重荷なり春の雪』/杉山杉風
  • 『今一俵炭を買はうか春の雪』/各務支考
  • 『子の多き家に宿かる春の雪』/河合曾良
  • 『飛び乗るや春の雪散る二歳駒』/立花北枝
  • 『紙すきの手元にちるや春の雪』/高桑闌更

現代であれば季重なりとなるような句もありますが、いずれも「春の雪」を繊細におかしく描いている作品たちです。現代人でも情景が何となく浮かびそうなものをピックアップしました。

  • 『春雪や金閣金を恣(ほしいまま)』/松根東洋城
  • 『春の雪たわわに妻の誕生日』/日野草城
  • 『春の雪青菜をゆでてゐたる間も』/細見綾子
  • 『春雪や信濃に入りて貌変る』/角川源義
  • 『春の雪降りつつ早む夜の刻』/飯田龍太
  • 『みな春の雪を見上げて歩きだす』/夏井いつき

以上のような近代の「春の雪」の句のほかに、傍題として植物を含んだ季語の句も見ていきましょう。

  • 『極楽へゆきし誰彼牡丹雪』/村越化石
  • 可惜夜あたらよの桜かくしとなりにけり』/齊藤美規
  • 『黒板にDo your bestぼたん雪』/神野紗希
  • 『母訪へばさくら隠しの雪にあふ』/伊藤晴子
  • 『桜隠しキリストめける干したシャツ』/立川志らく
    →『桜隠しの物干キリストめけるシャツ』
  • 『暁光や桜隠しの五稜郭』/梅沢富美男
    →『桜隠しや暁の五稜郭』

下2つは「桜隠し」を詠んだ「プレバト!!」での俳句です。どちらも添削例と共に掲載をしています。「牡丹雪」は『ぼたん』のような形をした雪という意味ですが、「桜隠し」は植物の『桜』を物理的に隠してしまうといった意味合いですから、植物を含んでいるという意味では同じですが、それぞれの持つ意味は別な点も注目すべきでしょうか。

ちなみに、「プレバト!!」で複数回詠まれている『桜隠し』という季語については、国立国会図書館のレファレンス協同データベースによると元は「新潟の方言」だったそうです。広辞苑にも記載がないことを思うと、近年になって全国区になった単語なのかも知れませんね。

各地の気象データにみる「春の雪」

では、実際の各地の気象データから、「春の雪」の事例を見ていきましょう。いずれも気象庁の『過去の気象データ検索』から参照したものです。

西日本「(愛媛県)松山」

まずは、俳句歳時記が多く編まれた俳都・松山に注目していきましょう。いずれも1953年以降です。

  • 4月の降雪:0cmが3回
    1965/4/1、1972/4/1、1975/4/2
  • 3月の降雪:1cm以上3回
    1965/3/16:7cm、1969/3/12:9cm、1986/3/23:1cm

今の公式記録では2014~22年にかけて降雪が観測されなかったりと「雪」が珍しいものとなっている松山。昭和の後半には何とか桜の季節に雪というシチュエーションがあったのかも知れませんが、市街地では「桜隠し」となるような事例は殆ど見られなさそうです。

東日本:「東京(千代田区大手町)」

松山ほどではないものの、やはり珍しいのが「東京」における『春の雪』です。前述のとおり2月頃には「南岸低気圧」による雪が降ることは珍しくないのですが、流石に3~4月ともなると稀です。

  • 4月の降雪:1cm以上が3回
    1956/4:2cm、1969/4/17:2cm、1988/4/8:9cm
    (0cmでの降雪も1998年が最後で、21世紀には該当なし)
  • 3月の降雪:1cm以上が平成・令和で4回
    1969/3:月間降雪量54cm(2回にわたり20cm以上の大雪)
    1995/3/1:2cm、1998/3/1:5cm、2005/3/4:2cm、2020/3/29:1cm

3月上旬の積雪は平成中盤までにも複数回観測され、昭和まで遡ると4月の降雪も時折見られました。令和に入って、2020年3月29日には平成時代にもなった1cmの降雪を春分後に観測し、桜の季節を過ぎた後に『春の雪』が降りました。

日本海側:「(新潟県東蒲原郡)阿賀町津川」

「桜隠し」という季語の元になった方言の地が「新潟県東蒲原郡」だということなので、その最寄りのアメダス地点である「津川」をピックアップしましょう。

(出典)気象庁 ホーム >  各種データ・資料 >  過去の気象データ検索 >  観測史上1~10位の値

1981年の観測開始から、5月になると流石にアメダスでの「降雪」事例は見られませんでした。しかし4月でも降雪は珍しくなく、年によっては1mに達する値も記録されているあたりが流石「北国」といった感じが致します。

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阿賀町はどうやら4月前半に開花することも珍しくないようで、降雪のデータからみると、確かに「桜隠し」の雪が全国的にみるとそこまで珍しくないエリアなのかも知れません。

季語というのは、数十年に一度しかない事例というよりも、毎年……少なくとも数年に1回は見られる事象でないと認識されにくい部分があるので、そういった事情とも合致するデータかも知れませんね。

北日本:「(青森県)弘前」

更に北上して青森県の「弘前」をみてみます。「弘前さくらまつり」が非常に著名な弘前公園ですが、

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さすがに5月に降雪した事例は平成以降、アメダスでは認められず、4月も上旬に降ることが一般的なようです。

(出典)同上

4月上旬に降雪することは多いものの、流石に4月後半からの例年の「弘前さくらまつり」のシーズンに降雪することは近年では珍しく、これも『桜隠し』が比較的レアな事が窺える結果となっています。

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