【はじめに】
この記事では、「プレバト!!」で度々披露される「バイク / 750cc(ナナハン)」を詠み込んだ俳句を振り返っていきます。
2022年8月19日(いわゆる「バイクの日」)に公開した本記事。ウィキペディアにもある通り、実は「バイクの日」って愛好家が決めたとかじゃなくて、(今の)総務省が平成元年に制定したれっきとした記念日なんだというのを今回初めて知りました。さあ、閑話休題、プレバト俳句をみていきます。
バイクの日
8月19日
8月19日の「819」が「バイク」と読めることから。総務省交通安全対策室が1989年に制定。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
名人・特待生が詠んだバイク俳句
北山宏光さん:初昇格の「出前機」の1句!
「バイク」俳句というと、あの人の750cc(ナナハン)を思い出してしまいますが、先にそうではない方の作品を紹介したく思います。
苦労の末、特待生に昇格した北山さん。4回連続「現状維持」など特待生5級で足踏みが続き、特待生剥奪を恐れる中で悲願の昇格を決めたのがこちらでした。(↓)
(2020/05)出前機の揺れと鼻唄交じる初夏/北山宏光
五七五の定型に近い「句跨り」。内容は非常にシンプルで、初夏という季語との相性もバッチリです。
普段バイクに乗る機会がない方からすると、こうした出前機のような車道を走るバイクを見かけることが経験の中心かと思います。そうした生活の中に見かける物もちゃんと俳句のタネになるんですよね。
村上健志名人:6段へ昇格のバイクの1句!
もうお1方、名人・特待生からフルーツポンチ村上さんが6段に昇格したバイク……というか『8月』の俳句です。
(2018/08)八月の海を置き去るバイクかな/村上健志
やや構造が複雑に感じる部分がないこともないのですが、それに拍車をかけているのは『八月』という複雑な背景を持つこととなった季語の存在でしょう。
『八月』という季語と海をくっつけて『八月の海』という一塊を作った上で、その季語の部分を「置き去る」と突き放します。『八月の海を置き去る』と季語を突き放すとそこから後の下五で展開して俳句として成立させるのは非常に難しくなるのですが、
『八月の海を置き去るバイクかな』と下五で主人公とも脇役ともいえる「バイク」の存在を『かな』という切れ字で支えるという構造は非常に技巧的だなと感じました。「八月」を現代的な夏休みの空気で捉えてももちろん良いですし、戦後の「八月」と見做して深い意味を読み解いても良いかと思います。
ただ、やはりここから先みていくように、夏井先生の仰る「リアリティ」の面は、実際にバイクを乗り回してきた方が有利です。ここからは「バイク」の愛好家の方々が詠んだ作品のパートです。
若かりし頃、バイクを乗り回していた皆さんの俳句
瀧川鯉斗さん:一般参加者ながらバイクで2句
初挑戦時に落語家らしい俳句を披露した瀧川鯉斗さん。しかし、上の著書の表紙からも分かるとおり、若い頃に暴走族の総長だったという彼が2度目に披露したのは、こんな作品でした(↓)。
(2021/11)アクセルを回し飛び込む秋の色/瀧川鯉斗
↓
アクセルを回し秋色へと飛び込む
ここで特に注目すべきなのは、「アクセルを回す」という表現でしょう。千原ジュニア名人も過去に使っていましたが(後述)、四輪の「アクセルを踏む」とは異なる表現で、「バイク」であることを示す技法は中級者以上かと思います。
夏井先生からは「秋の色」よりも「秋色へと飛び込む」などと後半に躍動感をもたせる添削がなされましたが、やはりこれもご本人がバイクを飛ばしていなければ生まれなかった発想でしょう。
その約2ヶ月後に披露された句も、『手套(しゅとう)』からバイクの乗り手らしさを感じると共に、季語の肉まんから“バイク乗りの冬”を感じる内容となっていました。(↓)
(2022/01)肉まんやヘルメット脱ぎ手套脱ぎ/瀧川鯉斗
初登場からストレートで3連続「才能アリ」だったにもかかわらず、『バイク以外の俳句も見たい』と特待生昇格が据え置きとなってしまって1年あまり。新たな落語家特待生だけでなくバイク俳人としての特待生にも期待が高まります。
的場浩司さん:バイク俳句で特待生昇格!
ウィキペディアでは“キャラ”であると明示されていますが、まことしやかに噂されてしまう流れがお馴染みとなっている的場浩司さんのヤンチャ話。2022年8月18日放送回でこんな句を披露しました。
(2022/08)『アクセルを開くや鉄馬月に吠え』/的場浩司
瀧川さんと同じく「アクセル」に付ける動詞が『開く』というところも見事でしたし、『や』で切った後の展開が更に迫力がありました。
アイアンホースの和訳から「鉄馬(てつば)」と呼び習わされることもあるというバイク(ハーレー)を、このように表現することで、作者のバイク愛が分かる人にはきっと伝わるでしょうし、下五の「月に吠え」という着地は、萩原朔太郎の詩集を彷彿とさせるような文学感も漂います。そこのギャップも含めて非常に魅力的であり、夏井先生は73点の高得点を与え、特待生昇格が決まりました。
(↑)の俳句歳時記に「職質」の句が掲載されたことで、俳句の魅力を知った的場浩司さん。やはりこうした実体験が伴うリアリティのある句は強いんだなと改めて感じました。
ナナハン俳句の申し子:千原ジュニア名人のバイク句
詳細は上の記事にも触れますが、特待生昇格を決めた最初の「750cc(ナナハン)」の俳句から暫くは「バイク俳句が上手い」という認識だった千原ジュニア名人。特待生昇格をつかむキッカケとなったのが自分の愛するバイクとそれにまつわる季節・季語の思い出でした。これが「オリジナリティ」や「リアリティ」の担保に繋がっていったのでしょう。
4句とも千原ジュニアさんにしか詠めないような実体験に基づく言葉遣いの作品たちです。いずれの句もずばり「750cc」を上五に据えていました。
夏井先生が直喩・隠喩を説明する例としてぜひ使いたいと申し出た2023年7月20日放送分の俳句は、掲載ならず(ボツ)査定ではありましたが、「750cc」を『トビウオ』にたとえ、そのトビウオを虚の季語とし、『夕立』を実の季語としたところにも千原永世名人の真面目なチャレンジがあったのだということを再認識しました。
ちなみに、名人としての地位も確立しつつあった2021年に詠んだ句は、『バイク』を明言していないのにそれを言外に感じさせるパワーに溢れてて素晴らしかったです。
俳句の世界で、「手袋」というのも冬の季語とされているのですが、『手袋のまま割る箸』とそれから響く『乾いた音』には、しっかりと手袋という季語から冬の空気感を受け取れますね。
フジモンさんなどから毎回イジられる「750cc」(ナナハン)俳句ですが、千原ジュニアさんが特待生に昇格(73点)するきっかけとなった作品であり、結果的に『代名詞的なフレーズ』にもなりました。
2023年7月の回でもそうだったように、この単語が来ると会場が盛り上がるというのは実例が少ない(中田喜子さんが『花追風』を使って2句目を披露した回など)と思うので、また機会をみて、上の句を詠まれた皆さんには新たな「バイク」俳句を作っていただきたいと思いました。貴方はどの句が好きでしたか? コメントでぜひお寄せ下さい。
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