【はじめに】
この記事では、「プレバト!!」の俳句コーナーで披露された作品群のうち、助詞『も』で終わることで“余韻”が感じられるようなものをピックアップしていきます。
どうしても助詞と言うと初学者には難しい印象を受けてしまいますが、その中でもこの『も』で終わる型は結構わかりやすい上にモノにしやすいタイプのものではないかと感じていますので、芸能人の方々の作品をもとに吸収していってください!
番組初期(2015年)の添削例
添削例として『~~も』で終わる作品は2014年度には見られます。2015年の早春の時期の添削例からまずは見ていくことに致しましょう。
2015/02/19・7位35点 『ほろ苦いペッ!菜の花恋もろともに』/若村麻由美 ↓ 『ペッ!ほろ苦し菜の花も恋も』
もちろん、必ず美味しそうにしなければいけない訳ではないですが、季語である『菜の花』をここまで不味そうに描写されてしまってはなかなか厳しい面があったかも知れません(苦笑)
『もろともに』という説明臭い5音で下五を形成するのではなくて、「~も~も」と並列にすることでリズムが生まれ口語の軽みを生むことに成功しています。
2015/03/19・4位54点 『古都の葉は誰にも言わず桜色』/岡本玲 ↓ 『誰にも言わず古都の桜も言の葉も』
ちょうど1ヶ月後に岡本玲さんが詠んだ作品は少し評価が上がって54点。ただ、「桜色」では季語としての力がグッと弱まってしまう点と、「ことのは」の掛詞が効いているかと言われると微妙な点から、添削後のような綺麗な形にしっくり収めた格好となりました。
「~も~も」の形に季語が一つ入ることで、季語とそうでないものの両方を並列に互いに立てるという試みが成功するので、シンプルに使ってみるとテクニック的に良さそうです。
更にこの半年後、少し違った余韻のもたせ方を発揮できる型での添削例が登場します。和田アキ子さんの素直すぎるこちらの1句です。
2015/09/03・5位50点 『サンマだと炭火おこしがまた楽し』/和田アキ子 ↓ 『また楽し秋刀魚の炭火おこすのも』
こちらは先程までと違って「~も~も」という形でなく、最後に1個だけ「も」を使うパターンです。「も」と言えば複数個を関連づける助詞ではありますが、17音という小さな器の中に全て盛り込むことを敢えてせず、17音の外(作品外)で読み手に想像させるという中級テクニックを使う添削となっているのです。
夏井先生風にいえば、「散文的」な語順を入れ替えて、倒置法的に「また楽し」から始めることからして技巧的なのですが、「~~~するのも」で後半を終わらせると、「他に何が楽しいの?」って読者が答えに想像を膨らませるのです。ついつい初心者のうちは答えを17音の中に明示したくなってしまうのですが、それをしない方が正解となりやすいケースもあるので、ここらへんのさじ加減を覚える上でもこの型を会得できると非常に心強いでしょう。
Kis-My-Ft2 メンバーの句で学ぶ「も」俳句
そして、Kis-My-Ft2のメンバー2人が特待生・名人となった頃の他メンバーの作品にも、「も」にまつわる俳句が複数ありましたので、振り返っていきましょう。
まずは、後に特待生へと昇格を果たす北山さんの作品の添削例からです。(↓)
2018/05/03・5位50点 『麗らかや蒼き空飛べ鯉、愛児』/北山宏光 ↓ 『麗らかや青き空飛べ子も鯉も』
上の句(原句)と添削後を比較した時に、やはり添削後の方が言葉も自然で流れるようなリズム感がある点でグッと良くなっています。俳句に「、」などを使っていけない訳ではないのですが、中級者以上でないと不自然になってしまう点で、並列を表すならば「、」ではなく「~も」という助詞を使ったという夏井先生の判断は理解できます。
改めて見てみると、中七までの12音は一切手を加えず、下五の情報も「愛児」と3音使わずに「子」と1音で言い換え、余った2音で「も」を2個挿入しただけというシンプルな添削でありながら、評価を20点以上押し上げそうな辺り、この型とか助詞の力には目を見張るものがあります。
そして、実は「も」という助詞に縁が深いメンバーというのが宮田さんなのです。時期は1年ほど遡りますが、2017年のゴールデンウィークに放送された回で、こちらも鯉のぼりが詠まれていました。
2017/05/04・4位35点 『風香る鯉の家族がゆらゆらと』/宮田俊哉 ↓ 『風薫る水面や鯉の家族らも』
少しこの「も」の省略している部分は複雑な構造になっているのでしょうが、一読した時の余韻の持たせ方は原句とは大きな差が生じています。細かいところを詰めるだけで、点数がほぼ倍になりました。
そしてこの宮田さんが攻めた所は、半年後に「も」を使った俳句を自作して挑戦したところでしょう。
2017/12/07・5位37点 『改札抜け凩や星温もりも』/宮田俊哉 ↓ 『改札を抜ければ荒星の生家』
結果的には「も」の恩恵をうまく受けられずに才能ナシでの査定となり、添削では「も」があっさりと外されてしまいましたが、名人・特待生を含めてもこの「も」で終わる形に挑戦した事例は見られなかった点で、意義あるものだったと思います。読もうとした情景も余韻もそれなりの詩情があったという風に思いましたしね。
名人・特待生へのワンランク上の添削例
そして、ここまで見てきた一般参加者レベルよりも、ワンランク上の添削がなされた様な名人・特待生の作品を見ていくこととしましょう。
まずは、当時はまだ特待生4級だった森口瑤子さんが、タイトル戦の予選最下位に沈んだ時の作品。
2020/07/30・炎帝戦予選Cブロック4位 『毒々しと思ふ日あり氷菓子』/森口瑤子 ↓ 『毒々しと思ふ氷菓子も人も』 ↓ 『毒々しと思ふ氷菓も人も吾も』
「~も~も」という並列する形は過去に何度も添削例として登場してきましたが、今回のように「も」を3つも繋げるのは上級テクニックに思えます。少なくとも季語でないものを2つ、並列で立てないといけなくなるからです。
実際には、「氷菓」という季語と「人も吾も」という2つに大別され、計3つの「も」が使われているという分析もできそうですが、それはそれで3つのバランスの取り方が非常に難しいという意味では、相当練って作らなければ高評価を得るのは難しそうです。
この記事を書くきっかけになったのが、2023年6月に披露された中田喜子さんの句の添削例でした。
2023/06/08・現状維持 『鯱戯け尾ひれかみかみ南風』/中田喜子 ↓ 『南風やシャチの尾ひれを噛むシャチも』
もともと句材の良いタイプの作品ではある一方で、上五とか「かみかみ」とかそういった部分にこだわってしまった結果、初見で分かりづらくなってしまっていたのが最大の弱点に思いました。
夏井先生は淡々としかし丁寧に言葉のデッサンをしていき、最後の1字として選んだのが助詞の「も」でした。この「も」の奥行きの深さに改めて魅了され、この記事を書いたのです。
『尾ひれを噛むシャチも【いる】』という後半に対して、もうひとつ暗示されているのが「(尾ひれを噛まれている)シャチ」の存在です。「鯱」とすると古典的な季語としてのしゃちですが、シャチと敢えてカタカナにしたことでいわゆる飼育されているショーのシャチだというヒントになっているという見方が出来ますし、それが複数いることを示そうとする添削意図だと分かります。
ここまでお示ししてきたような添削例を参考にしつつ、皆さんの中にある「俳句の型」の一つの引き出しとして記憶していただければと思います。何かのタイミングでこれが効果てきめんに発揮される句材に出会えるかも知れません!
そしてこの記事を書いた直後(2023/6/15)には、おっちゃんの作品にも同じような添削が施されました。『1/f ゆらぎ』で調べると出てきますが、以前から「心地よい」ゆらぎの代名詞的に言われます。
2023/06/15・ガッカリ 『せせらぎの 1/F 夕蛍』 ↓ 『1/F せせらぎも蛍も』
おっちゃんが72歳にして初めて知った言葉を使ってみたそうで、やや不運な面もあったように思いますが、(おそらく『鬼滅の刃』のお館様などで)今また再注目されたこともあって、ここ最近、こうした俳句でよく見かける言葉となってしまったようで、類想類句感に夏井先生は食傷気味な様子でした。
添削後を見ると、私がこの記事で書いてきたそのままに、『蛍(音数的に「ほうたる」と4音で)』もその他の部分も両方が強く並ぶという点で、一種の「型」を利用した添削だったと言えます。
To Be Continued…
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