「初動以外売上」についての基本情報
例えばここに「100万枚ないし100万pt」などを記録したヒット曲が2つあるとします。1つは多くのファンが居て、発売前から注目されファンを中心に初週で90万枚(pt)以上を記録した楽曲。もう1つは発売当初は1万枚(pt)程度だったものの1年をかけてジワジワとロングヒットし、発売から1年でついに100万枚(pt)に到達した楽曲です。
これらは出来上がりの数字「100万」でみてしまうと同じ値となりますが、そこに至る過程は全く異なります。発売初週が最も顕著ですが、そこで比較をしますと「初動90万 vs 1万」となります。これはCDチャートなどでも最注目される指標で、自然と目にする機会も多くあります。
一方で、「初動以外:10万 vs 99万」なんていう比較の仕方はまず見かけません。しかし、個人的にはこの指標こそ以前から注目していました。例えば、「初動 ÷ 累計 = 初動比率」であったり、「非初動売上」であったりです。実はここに注目をすると、平成の後半でも「CDチャート」からロングヒットの傾向を窺い知ることが出来ました(←過去形)し、新たな発見があったものです。
これをもう少し数字で模式的に表してみると、例えばこんなパターンとなるでしょうか。
曲名 | 初週 | 1月後 | 1年後 | 初動比 | 非初動 |
---|---|---|---|---|---|
『A』 | 90 | 100 | 100 | 90% | 10% |
(+10) | (+ 0) | ||||
『B』 | 1 | 5 | 100 | 1% | 99% |
(+ 4) | (+95) |
流石に現代において「初動1万枚」から100万枚に達する様な楽曲は存在し得ないでしょうし、初動で90万枚売った曲が2週目以降で10万枚を積んで100万枚に達する力すらなくなっているかとは思いますのであくまでも「模式図」の様に捉えて下さい(^^;
上は、例えば「CDシングル」でも「デジタルシングル」でも「複合チャートの点」でも良いのですが、単一の基準軸の中での得点推移だと捉えて下さい。例えば「100万枚」だとしても、上にあげた表での3つの期間(①初週、②2週目から5週目まで、③1か月後から1年後まで)で数値化してみると気づくことがありそうです。
我々はややもすると「CDシングル」はどちらかというと短期で、「ストリーミング再生回数」はどちらかという長期という固定観念を抱きがちですが、細かく区切って見ていくと、同じ指標での数字の積み重ねでも案外複雑な動きを示しているかもしれないのです。
具体的な事例を参考に振り返ってみると
ここまで抽象的な例で示してきたので、もう少し具体的な例を参考にしていくことに致しましょう。
(1)『Lemon』/米津玄師
1例目としたいのが『Lemon』です。上から縦に3つほどの指標の値(元データ)を並べ、右に行くに連れ時間が進んでいきます。いずれの値も実際の値と少し変え、模式的に理解してもらった時の感覚で読めるように一部変えてありますことをご理解ください。
『Lemon』 | 初週 | 1月後 | 1年後 | 現在 |
---|---|---|---|---|
CD売上 | 20 | 30 | 55 | 60 |
(万枚) | (+10) | (+25) | (+ 5) | |
DL売上 | 25 | 70 | 200 | 350 |
(万DL) | (+45) | (+130) | (+150) | |
再生回数 | 1 | 3 | 30 | 80 |
(千万回) | (+2) | (+27) | (+50) | |
累 計 | 46 | 103 | 285 | 490 |
上の3つの模式図を見ても、最初の1週間の合計では全体の10分の1程度にしか達さず、1か月後にはようやく今の5分の1の水準となっていますが、YouTubeの再生回数は数千万回でした。それでも凄いのですが、日本のミュージシャンでのMV最高視聴回数記録を更新し続けている同曲も、平成時代には、まだこういった値だったのだということをつい忘れてしまいがちです。
そしてこのあたりは肌感覚とも合致するのでしょうが、ヒットの伸びの時期が、「CD売上→DL売上→再生回数」とシフトしていっていることも数値化できています。少なくとも、CD売上とストリーミングの再生回数の伸び方は、時間が経てば経つほど差が顕著なものとなっていきます。
他方、CD売上といえば殆どすべての楽曲が初動偏重であり、2週ランクインすることすら難しくなってきていますが、ロングヒットしている曲はジワジワと売上を伸ばしていることを忘れてはなりません。 CD売上も、全て「短期的(初動だけの)ヒット」とは限らないことを抑えておきましょう。
(2)『そばにいるね』/青山テルマ feat. SoulJa
こちらは更に数字の値が実態とかけ離れているかと思うので、いわゆるイメージとして捉えて頂きたい面もあるのですが、2008年上半期を席巻した『そばにいるね』です。
『Lemon』 | 初週 | 1月後 | 1年後 | 現在 |
---|---|---|---|---|
CD売上 | 5 | 20 | 55 | 55 |
(万枚) | (+15) | (+35) | (+ 0) | |
着うた売上 | 75 | 300 | 500 | |
(万DL) | (+75) | (+225) | (+200) | |
フル配信売上 | 10 | 250 | 300 | |
(万DL) | (+240) | (+50) | ||
再生回数 | 1 | 2 | 5 | |
(千万回) | (+1) | (+ 1) | (+ 3) | |
累 計 | 5 | 106 | 607 | 860 |
この曲は発売から数ヶ月(特に2008年上半期)に爆発的にヒットし、着うた(フル)時代の到来を完全に印象付けたと記憶しています。まさにストリーミング時代に年間1位となった『夜に駆ける』に匹敵する様な衝撃ぶりでした。
ただ、個人的に気になるのは、『着うた・デジタル』発の大ヒット曲が、デジタル売上のみが突出していて、YouTubeなどの再生回数やカバーアーティスト数などで平成後半以降、苦戦を強いられている点です。
平成中期を中心に着うた(フル)でミリオンが連発しましたが、『キセキ』などの例外を除き、多くの楽曲が既に半ば『過去の楽曲』となってしまっています。
もちろん、今でも根強い人気を示している着うた発のヒット曲達ではあるのですが、『奏(かなで)』や『愛をこめて花束を』、『HANABI』などの方が令和において耳にする機会が多いことは注目に値すると思います。
(3)『およげ!たいやきくん』/子門真人
そして、伝説的とも言える存在として、『およげ!たいやきくん』も例にとって見ましょう。上の2曲は21世紀に入ってからですが、『およげ!たいやきくん』は1975年のクリスマスに発売され、1976年にかけて大ヒットしました。
『およげ!』 | 初週 | 1月後 | 1年後 | 現在 |
---|---|---|---|---|
EP売上 | 20 | 200 | 450 | 460 |
(万枚) | (+180) | (+250) | (+10) |
当時のヒットチャートをみると初動売上は数十万の前半だったと見られますが、年明けに空前絶後の増版へと繋がっていきます。あっという間にミリオンヒットを超え、数百万枚という水準に達していったのです。
オリコン週間シングルチャートでは史上初の「初登場1位」だったといい、1976年に初登場1位が一気に増えていく過渡期であったとされますが、オリコンチャートでの週間売上のピークは発売から2か月あまり経ったタイミングだったそうです。
今でこそ「初動:1週間」でほぼすべてが決まってしまう感のあるフィジカル売上のチャートですが、この頃はまだそうではありませんでした。当時のスタートダッシュは1か月ぐらいのスパンを見ていたのかも知れません。これはちょうど、今のYouTubeのMVの再生回数に似た時間軸だったのでしょうね。
以上みてきたように、『CD売上:450万枚』も、『着うた:400万DL』も、『MV再生:8億回』なども結局は一つ一つの積み重ねであり、時代や曲の売れ方によって、本来は一つの要素に限定してしまうのは拙速で誤解を生じさせてしまう可能性があることを抑えておきたいところです。
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