21世紀に大きな変更があった重賞レースについて(前身・回次の分析&パターン分け)

【はじめに】
2025年のJRAのレーシングカレンダーを見ると、「米子S」が「しらさぎS」として重賞となったり、「府中牝馬S」が「アイルランドT」となったり、目立つ変更が幾つもありました。特に国際的な格付けを意識した組み換えが求められる昨今、レース名称の変更や開催時期の入れ替えなどが複雑怪奇となってきており、新参古参を問わず脳内混乱しがちです。

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そこでこのシリーズでは、レース回次や過去の変遷について実情に即して整理していきたく思います。結構歴の長い競馬ファンでも知らない様な古い時代のものも反映させていますので、ぜひ最後までお楽しみ下さい。

ちなみに、G1競走については、下の記事で別途まとめていますのでそちらもお読み下さい。

2000年代:JRA独自から国際基準での重賞創設へ

2004年:父内国産馬重賞の条件変更

令和に競馬を好きになった方にはピンと来ないものの、21世紀初頭まで「父内国産馬限定」重賞というのが幾つかありました。『九州産馬限定』のように出走条件を設けたレースが重賞にあったのです。
平成の前半にサンデーサイレンス旋風などで「父内国産馬」が種牡馬ランキングの上位を占めるようになると、『外国産種牡馬に押され気味の内国産種牡馬を優遇』する必要がなくなり、2000年代を通じて「父内国産馬限定重賞」の条件変更が進められました。

12~1月4月3・12月
20c1972年
父内国産馬
限定戦に
1974年
父内国産馬
限定戦に
1981年
父内国産馬
限定戦に
2003第41回
愛知杯
第57回
カブトヤマ記念
第39回
中日新聞杯
2004第42回
愛知杯
第01回
福島牝馬S
第40回
中日新聞杯
2007 ~ ~第43回
中日新聞杯
2008 ~ ~第44回
混合競走に
2024第61回
愛知杯
第21回(78)
福島牝馬S
第60回
中日新聞杯

戦後「セントライト記念」と共に新設された「カブトヤマ記念」は『福島牝馬S』と名称を変更して回次もリセットされましたが、仮に回次を引き継いでいれば2024年時点で78回となります。
反対に、同年に牝馬限定戦となった「愛知杯」は、レース名が変わらなかったこともあってか回次が継続されています(2025年の変革でまたややこしくなる訳ですが)。

2006年:短距離路線の再整備

1996年に短距離路線が整備されてから10年の2006年。再整備といった感じで幾つかの重賞の条件変更がなされました。「阪神C」の創設は印象的ですが、以下のような感じでした。

3歳
3~4月
3歳
6~7月
古馬
3月
古馬
8月
古馬
12月
1965第1回
CBC賞
1987第1回
クリスタル
C
第1回
中日スポーツ賞
4歳S
1990年~
6月開催
1996 ~(距離短縮)(OP特別)
オーシャンS
(OP特別)
キーンランドC
1996年~
11月開催
2000 ~ ~ ~ ~第36回
CBC賞
2001 ~(名称変更)
ファルコンS
 ~ ~ ~
2002 ~ ~ ~(1000万下) ~
2005第19回
クリスタル
C
第19回
ファルコンS
(OP特別)
オーシャンS
(1000万下)
キーンランドC
第41回
CBC賞
2006第20回
ファルコンS
(該当なし)第1回(11回)
オーシャンS
第1回(11回)
キーンランドC
第1回
阪神C
2024第38回
ファルコンS
(該当なし)第19回(29回)
オーシャンS
第19回(29回)
キーンランドC
第19回
阪神C

平成前半は、オーシャンSとキーンランドCがOP特別ないし条件戦でしたので、2005年以前の開催は回数に含まれません。仮に含めると2025年で30回となります。

このほか、阪神牝馬SやCBC賞の開催時期、そしてCBC賞やセントウルSの格付け変更もこの時期です。新設の「阪神C」の前年、12月にはG2だった「CBC賞」が1200mで開催されていました。仮にCBC賞の回次を単純に足せば2024年で60回相当、12月開催に限っても回次は倍増以上となります。

また、2008年には「フェアリーS」が1月に移るため同年内の開催が飛んだことも印象的ですが、ひっそりとダート重賞「ガーネットS」が廃止され、新設でありながら格付けを引き継いだ「カペラS」が12月に開催されるようになっています。仮に「カペラS」が「ガーネットS」の回次を引き継いでいたら、最大27回(非重賞時代15回+重賞昇格後12回)を加えられる点も注目に値します。

2000年代後半:サマーシリーズ

(現在、寄稿中)

2009年:障害重賞の春秋交替

障害重賞に関心のない人にはピンと来なくても仕方ないのですが、2008年に『障害重賞』の春秋交替が行われ、それがある種の混乱を呼んだ時代もありましたので、簡単に表だけ載せておきます。

京都・春東京・春東京・秋京都・秋
1998第90回
京都大障害・春
第85回
東京障害特別・春
第86回
東京障害特別・秋
第91回
京都大障害・秋
1999第1回 JG3
京都ジャンプS
第1回 JG2
東京ハイジャンプ
第1回 JG3
東京オータムジャンプ
第1回 JG2
京都ハイジャンプ
2008第10回 JG3
京都ジャンプS
第10回 JG2
東京ハイジャンプ
第10回 JG3
東京オータムジャンプ
第10回 JG2
京都ハイジャンプ
2009第11回 JG2
京都ハイジャンプ
第11回 JG3
東京ジャンプS
第11回 JG2
東京ハイジャンプ
第11回 JG3
京都ジャンプS
2024第26回 JG2
京都ハイジャンプ
第26回 JG3
東京ジャンプS
第26回 JG2
東京ハイジャンプ
第26回 JG3
京都ジャンプS

2010年代:オープン特別から重賞へ

2012年:鳴尾記念と金鯱賞

複雑の代表格とも言える重賞が、「鳴尾記念」と「金鯱賞」です。ご覧のように3~4つの時期を縦横無尽に移ろっています。一応はG1のトライアルとして生き残りを模索している格好ですが、『また変わったのか』と古参には思われがちな重賞の開催時期は以下のとおりです。

3月5~6月6~7月12月
1986第39回 G2
鳴尾記念
第22回 G3
金鯱賞
1995第31回 G3
金鯱賞
第48回 G2
鳴尾記念
1996第32回 G2
金鯱賞
第49回 G2
鳴尾記念
1997第33回 G2
金鯱賞
第50回 G2
鳴尾記念
1999第35回 G2
金鯱賞
第52回 G2
鳴尾記念
2000第36回 G2
金鯱賞
 ~第53回 G3
鳴尾記念
2011第47回 G2
金鯱賞
 ~第64回 G3
鳴尾記念
2012第65回 G3
鳴尾記念
第48回 G2
金鯱賞
2017第53回 G2
金鯱賞
 ~
2024第60回 G2
金鯱賞
第77回 G3
鳴尾記念

2013年:平安Sと東海Sの交替

元は冬に開催されていた「(東海)ウインターS」が5月になって「ウインター」が外れて「東海S」となり、OP特別から昇格した「平安S」。この2レースが急遽開催時期が入れ替わったのが2013年のことでした。

12~1月・ダート1月・ダート5月・ダート
1984第1回 G3
ウインターS
1986 ~(OP特別)
平安S
1994 ~第1回 G3
平安S
1997第14回 G2
東海ウインターS
 ~
2000(該当なし)7回 G3
平安S
第17回 G2
東海S
2012(該当なし)第19回 G3
平安S
第29回 G2
東海S
2013(該当なし)第30回 G2
東海S
第20回 G3
平安S
2024(該当なし)第41回 G2
東海S
第31回 G3
平安S

結果的に「平安S」はG3ながら帝王賞のJRA前哨戦としての地位を確立した一方で、「東海S」はG2でありながら、昔の川崎記念に実力馬を取られたり、フェブラリーSがG1としての地位を危ぶんだりした結果、G2としては物足りないレーティングが続くこととなり、後述する2025年を迎えました。

2014年:2歳牡馬路線

G1の大幅変更の影に隠れて、すっかり10年で定着した感のある2歳重賞から、こちらを取り上げます。

東京+いちょうサウジ関連ラジオたんぱ社杯京都2歳S
1959(OP特別)
京都3歳S
1968(条件戦)
いちょう特別
 ~
1984(OP特別)
いちょう特別

第1回
ラジオたんぱ杯
3歳牝馬S
 ~
1991 ~第8回
ラジオたんぱ杯3歳S
 ~
1999 ~(東京HJの副題) ~ ~
2001 ~第18回
ラジオたんぱ杯2歳S
(OP特別)
京都2歳S
2002 ~(オアシスSの副題) ~ ~
2003 ~(OP特別)古馬 ~ ~
2006 ~(OP特別)古馬第23回
ラジオNIKKEI杯2歳S
 ~
2007 ~(富士Sの副題) ~ ~
2013(OP特別)
いちょう特別
 ~第30回
ラジオNIKKEI杯2歳S
(OP特別)
京都2歳S
2014第1回
(重賞)
いちょう特別
(富士Sの副題)第1回
ラジオNIKKEI杯
京都2歳S
2015(該当なし)第1回
サウジアラビア
ロイヤルC
 ~
2024(該当なし)第10回
サウジアラビア
ロイヤルC
第11回
ラジオNIKKEI杯
京都2歳S
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もともと1960年代から続いてきた「いちょうS」を重賞に一旦昇格させた上で、固定したレースではなかったサウジアラビアロイヤルCという名称をドッキングさせたのが左側、緑色のラインです。そして実際には「ホープフルS」の重賞昇格時に回次を継承している『ラジオNIKKEI杯2歳S』ですが、距離が2000mで関西開催の社杯となると、むしろ現在の「ラジオNIKKEI杯京都2歳S」の方が正当後継にも見えます。

2010年代後半:OP特別 → 重賞へ

上記の「いちょうS」などもそうですが、2010年代には基本的に「オープン特別(もしくはリステッド競走)」で実績を積んで、重賞を経て、GIIIに格付けされる流れとなりました。

レース名OP特別重賞GIIIGII
ターコイズS1982~20142015~20162017~
紫苑S2000~20152016~20222023~
葵賞→葵S1985~20172018~20212022~

それぞれしっかりと個性を持ち、それどころか「紫苑S」に至っては早々にG2昇格を果たすなど、成功したと思えるような重賞が令和に羽ばたいている印象です。

2020年代:2025年の重賞変革を整理する

コロナ禍やオリンピックによる影響が受けた2020年代前半を経て、2025年にはG2・G3を中心に重賞の変革が久々に行われました。新設重賞としては、

  • (25回開催)米子S(L)→ しらさぎS(G3)に昇格

「しらさぎS」が夏競馬の入り口に『新設重賞』としてG3の格付けが付与されることとなりました。2000年から25回を重ねてハイレベルだった「米子S」が良い形で生まれ変わることに期待します。

古馬牝馬重賞(アイルランドT、府中牝馬Sなど)

レース名の入れ替わりなどが激しくなったのが「古馬牝馬重賞」路線です。まずは、2024年と2025年で最も簡素にした図をご覧ください。

1月3月6月10月
2024第61回
愛知杯
第59回
京都牝馬S
第29回
マーメイドS
第72回
府中牝馬S
2025第1回
小倉牝馬S
第62回
愛知杯
第73回
府中牝馬S
第1回
アイルランドT

愛知杯は春3月となり、1950年代からの伝統があった京都牝馬Sが事実上の廃止。代わりに「小倉牝馬S」が創設されました。また、こちらも歴史の古い「府中牝馬S」は、東京で開催されるという条件のみをもって初めて初夏開催となり、宝塚記念後の名物ハンデだった「マーメイドS」が事実上の廃止となりました。代わりにレースとして独立したのが「アイルランドT」です。

もともとは、あのエイシンヒカリ が衝撃の勝利を見せたように、牡馬も出走可能なオープン特別でしたが、2017年から「アイルランドトロフィー府中牝馬S」と連結した際に、元のアイルランドTは「オクトーバーS」に置き換わりました。平成からの競馬ファンだと「アイルランドT」が牝馬限定戦であることに慣れるのにまだしばらく時間が掛かりそうです。

ダート路線:プロキオンS ←→ 東海S

こちらもまた混乱するのが、ダート路線です。格付けを含め、他事例と整合性が取れていないのではないかと気になるのが「プロキオンS(G3→G2)」と「東海S(G2→G3)」です。上の記事でも混乱してしまって……正直、この記事を書こうと思ったキッカケがこれでした。

時期2024年距離2025年距離
1月第41回
「東海S」

(G2)
1800m第30回
「プロキオンS」

(G2)
1800m
7月第29回
「プロキオンS」

(G3)
1400m第42回
「東海S」

(G3)
1400m

もともと「プロキオン」の名を冠したレースが夏に行われていることに疑問があったので、1月開催となること自体は賛成でしたし、昨今の「東海S」のレーティングを見る限り、G2に相応しいか微妙だなと思っていたので、G3降格も致し方ない面があるようには感じていました。

しかしです。本来であれば「東海S」のG2の格付けを維持して、同条件の「プロキオンS」に名称だけを引き継ぐならば『第42回・プロキオンS』でも良いはずなのに、回次はプロキオンSのものを受け継ぐ格好となっています。一応認められているから1月にG2として開催されたのでしょうが、格付け維持の整合性がイチ競馬ファンには直感的にピンと来づらい面があります。パートI国の難しさですかね。

個性が受け継がれなかった「中京2歳S」

ともに1960年代にはオープン特別だった「小倉2歳S」と「中京2歳S」。小倉2歳Sは一貫して1200mの真夏の重賞として定着していましたが、中京2歳Sは距離も時期もかなり変化しました。

8月距離7・12月距離
1960年代1961年
(OP特別)
小倉3歳特別
1200m1960年
(OP特別)
中京3歳S
1981年第1回 重賞
小倉3歳S
1200m1982年~1800m
2001年第21回
小倉2歳S
1200m(OP特別)
中京2歳S
1800m
2012年(7月)1400m
2016年(7月)1600m
2020年(12月)1200m
2024年第44回
小倉2歳S
1200m(OP特別)
中京2歳S
1200m
2025年第1回
中京2歳S
1200m 該当なし

中京2歳Sはオープン特別だったとはいえ、年末開催ということもあり侮れないレベルを持っていて、メイショウサムソンダイワスカーレットがこのレースを制していました。しかし2012年に夏の短距離戦となるとその特徴が削がれ、令和になってからは1200mの年末のレースとなり、2011年までの面影もなくなってしまいました。

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一方、メイショウボーラーメイケイエールなどを輩出してきた「小倉2歳S」は条件を大きく変えずに令和まで続いてきましたが、2024年の第44回(重賞のみのカウント)をもって事実上の廃止となってしまい、「中京2歳S」が新設される運びとなりました。
しかしここでも、時期としては競馬の開催順が変わった煽りを受けただけで実際には「小倉2歳S」を踏襲しているのですが、JRAの回次基準的には適切なのでしょうが、ファンの体感に合わない中途半端な形となってしまったのは些か残念でした。

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