【はじめに】
この記事では、「プレバト!!」の俳句名人でもある女優・中田喜子さんが創作した新たな季語「花追風(はなおいて)」について解説していきます。
この季語が披露された時の「プレバト!!」については、MBSさんの「もう一度楽しむプレバト」でも、改めて振り返ってくださいますと幸いです。
☆女優・中田喜子がオリジナルの季語で傑作、
夏井先生「たいした度胸!」|MBS「プレバト!!」
https://www.mbs.jp/mbs-column/p-battle/archive/2019/05/09/017067.shtml
(2019年)「花追風」初披露句を覚えてる?
「プレバト!!」では、本業・俳人でない多くの方が俳句にチャレンジしています。そんな中でも、女性として初めて俳句名人となった女優・中田喜子さんは(表情の豊かさばかりが取り上げがちですが^^) その俳句の堅実さと句またがりでのキレの良さが際立ちます。
そんな中田喜子さんが、名人初段から名人2段に昇格した句で、「花追風」という季語が初めて使われました。みなさん覚えていますか?
「『とき』発車旅憂わしき花追風」
(2019/05/02)中田喜子 名人
※ちなみに、この句、日付をご覧になればお分かり頂ける通り、改元翌日(2019年5月1日をもって、元号が平成から令和に改まりました)に放送された回だったことも懐かしく思い出されます。同じ回には千原ジュニア名人が『子の利き手左と知りて風光る』と詠んで、こちらも昇格を果たしています。
ここでいう「とき」は、括弧書きされているので分かりやすいかと思います。確か上越新幹線の列車名と番組でもご本人が語られていたと思います。(「発車」と続いているから、在来線との読みがあるとかは別にして、列車であることの誤読はほぼないですよね)
中七に入ると「旅」と出てきます。発車と言っているんだから、わざわざ旅と書かなくても良いのかと思わせておいて、後半に入ると展開が大きくスライドしていきます。
「旅憂わしき」という大和言葉を使って、非常に優雅に、そしてアンニュイに展開する中七を通って、下五の着地が大事になってきます。そして登場する季語“らしきもの”が「花追風」です。
上に書いたMBSさんホームページからの文言をお借りすれば、
夏井いつき先生は「見たことのない季語だったから、家にある古い歳時記から用例を探しましたが、やっぱりなかった」と”花追風”という造語季語に戸惑ったようだが、「自分で季語を作るのは、たいした度胸ですよ!本当にびっくりいたしました」と大絶賛。文句なしの”1ランク昇格”を告げると、中田は「よかった~!」と大はしゃぎ。
上述のMBS公式サイトより引用
“戸惑った”などと書かれているので、一瞬番組を見ていない方は「ネガティブ」に捉えたのかと思われるかも知れませんが、そんなことはなくて、『この番組で造語の季語が出てくるのか!』という感嘆の感情がほとんどを占めていたと思います。
夏井先生は「1ランク昇格」と評価を下した後、中田さんに確認して「造語の季語」であることを確かめていました。夏井先生が「昇格の評価を下す」時点では『造語』であるかどうかは本人に確認できません。自分の知らない季語が「造語」かどうかを判断するというのは非常に難しいことなのですよね。(古い大判の歳時記には載っているマニアックな季語の可能性も否定できない)
夏井先生は相当調べて、「追(い)風」という既存の言葉に大きく3つの意味があると説明しました。
- 背中から吹く風
- 人生の追い風
- (『源氏物語』の用例で)【花の】香りをほのかに伝える風
『源氏物語』の用例は、花というより「香」のかおりを伝えるという方が正確なのかも知れませんが、今回は一旦置いておきます。いずれにしても上の3つのような用例を下地にして、季語を造語したのだとしたら“努力を讃えるしかない”と大絶賛をしていました。
これが2019年5月(桜の時期が終わったタイミング)での作句でした。晩春(ほぼ初夏)という時期。
(2020年)「夏井いつき俳句チャンネル」でも話題に
それから約1年経って、気づけば”YouTuber”デビューしていた夏井いつき先生。チャンネルを発足して1ヶ月足らずのタイミングで、こんな動画を出してました。初心者からよくある質問を答えるシリーズです。
☆夏井いつき俳句チャンネル(2020/05/21)
【季語】季語って勝手に作っちゃっていいの?
この動画の内容を纏めると(どこかでちゃんと記事を書きたいですが)
- 「季語を認定する機関」がある訳ではない(個々人で判断するもの)
※これについては、↓の記事で紹介している書籍にも回答が書かれていますのでぜひお求めください。
- 教科書にも載ってる名句『万緑の中や吾子の歯生え初むる』の季語「万緑」は、詠者である中村草田男の造語。この「万緑」が季語として認知されるまで……
造語の季語・俳句(名句)を作る
→ 名句に感化されて季語をみんなが使うようになる
→ 新たにできて皆が使ってる言葉だと認知されるようになる
→ 次の時代の『歳時記』に掲載される(可能性が出てくる)
数十年というスパンを要して「造語の季語」が定着していくこととなる。(← だから難しい)
この例として中田喜子さんの上の句を、ふと夏井先生が思い出します。そして、その裏話として、
あの言葉(花追風)が出てきた時に、私、収録終わってから中田さんに、来年の春には、これを季語にして使い出す人が出てくるかも知れないよ?
上記動画の5分50秒あたりから
そしたらアンタ、芸能人で一番最初に 季語を創った芸能人として名前残るよー! ってセットの褒めたことがあった(けどド忘れした)。
家藤正人さんから「でもこれ使おうと思ったら結構工夫が要りそうですねぇ」と語られますが、意欲的な方は辛抱強く、次の時代の季語とするべく「花追風」の句を作っておられるそうです。
(2022年)2度目の「花追風」、予選通過は……?
そして、「花追風」の句が初登場してから約3年、2022年の春光戦の予選に挑戦した中田喜子名人。
これまで予選無敗という中田喜子さんが詠んだ句、自身2度目の「花追風」の句でした。こちらです。
『花追風見知らぬ町の握りめし』
(2022/03/10)中田喜子・名人6段
個人的には、(もちろん最初の句を超えるのは難しいとはいえ)それなりに出来ているのかなと思っていました。しかし、夏井先生の評価は厳しく、ハイレベルな予選グループとはいえ予選最下位でした。
初の予選落ちにショックの表情を見せる中田名人。しかしこの評価となった理由について夏井先生は、
- 自分の作った季語を使いた過ぎて「他の部分の描写が疎か」になっている
- 季語を活かすならば『花追風吹いて三日の握りめし』などと比重を高め、
- 兼題写真のテーマである「2択」を明確に盛り込むなら、『花追風梅かこんぶか握りめし』などと春らしく情報を盛り込む
ことを添削例として示していました。中田名人もリアクションをされていましたが、更に造語の季語「花追風」の魅力が増したなぁと感じます。名句が誕生し、多くの人が新たな季語でどんどん作句することが「季語に認定」されるために必要なプロセスですので、この調子で量産していきたいですね。
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