最近「カラ馬」が先頭ゴールしたレースを見かけたけど、中央競馬(JRA)の重賞でそんな事例ってあったっけ?
今回は、平成以降の中央競馬の重賞で、「カラ馬(レース中に騎手が落馬した状態の馬)」が、他馬を抑えて先頭ゴールした事例をまとめていきます。漏れがありましたらコメント欄でお知らせ下さい。
ウィキペディアで学ぶ「空馬」
まず、日本語版ウィキペディアで「空馬」を検索すると、以下のように出てきます。空馬の事例です。
空馬(からうま)またはカラ馬とは、騎乗者(騎手、馬術選手など)が騎乗しているべき馬が、何らかの理由により騎乗者が落馬した際の馬の状態を指す。
競走中に空馬となった主な競走馬
カラ馬は騎手の制御がないため、大外に膨らんだりするなど効率の悪い走行ラインとなりがちであるが、一方でカラ馬となった競走馬は騎手を乗せていない分だけ軽量な状態での走行となるため、しばしばレース中の他の競走馬よりも早くゴールを駆け抜ける場合がある。ポルトフィーノは2008年のエリザベス女王杯で武豊をスタート直後に振り落とし、カラ馬のまま先頭で入線しており、これはグレード制施行後のGI競走における唯一の「カラ馬の1着入線」となっている(記録上は「競走中止」)。このほか天皇賞(秋)を制したギャロップダイナが1985年の札幌日経賞で、重賞では1993年の京阪杯でワイドバトルがカラ馬の状態で先頭ゴールしている。
空馬
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
昭和の代表例として、1985年6月のオープン戦で空馬先頭ゴールした【ギャロップダイナ】がいます。4走後(約5ヶ月後)の天皇賞(秋)で、皇帝・シンボリルドルフを下す優勝を収め、“アッと驚く”と言われたその背景にはこの逸走があったのです。
上に書かれているのが全てでなく、他にもここ最近で目立った例を中心に幾つか振り返っていきます。ただ、基本的には皆さんの印象どおり数年に1回しか例のないものですし、公式記録としては他馬よりも早くでゴール板を通過しようが、最後方で完走しようが「競走中止」に変わりがない点で、データを探すのが困難を極める点はご了承ください。特に1990年代以前は漏れがあろうかと思いますので、もし例がありましたらこっそり教えてください。
1993年「京阪杯」
2006年に1200m戦となるまで中距離重賞だった「京阪杯」で、1990年代を象徴するカラ馬先頭ゴールの事例が誕生します。当時はハンデの2000m戦という条件で行われていました。
勝ち馬:8番人気・ロンシャンボーイ
勝ったのは、デビュー以来1度しか3番人気以内に入ったことがなかった【ロンシャンボーイ】。この時も準オープンをブービー15番人気で勝ってオープン入りするもその緒戦(大阪城S)で3着と敗れていました。斤量は52kgと牡馬としては屈指の軽ハンデでしたが、1番人気のムッシュシェクルらを下して重賞初制覇を達成しました。
ちなみに、宝塚記念ではメジロマックイーンに5.1秒差のシンガリ負けを喫しますが、それに続く「高松宮杯」(こちらも当時は2000mの中距離重賞G2)では、57kgを背負って7番人気ながらレコード勝ちを収めています。
カラ馬:7番人気・ワイドバトル
このレースで『カラ馬先頭ゴール』を決めたのは、7番人気の【ワイドバトル】でした。前年の小倉大賞典を制し、過去半年でオープン特別を2勝していた実績などから58kgというトップハンデを背負い…ましたが、まさかの落馬。
そして向正面で勝つ【ロンシャンボーイ】が絡まれるような格好となったため、ワイドバトルに先頭を事実上譲り、カラ馬の後ろに控えるレース展開。後続も追いますが、レースとしては上位4頭が同じ上がり3F35.5秒で駆け抜けたため前との差は詰まらず。
当時の映像をみると、ワイドバトルは先頭に立ってため逃げを決め、直線半ばで【ロンシャンボーイ】以下を突き放して余裕をもっての先頭ゴールを決めているという鮮やかな逃げっぷりでした。結果的にロンシャンボーイは展開に恵まれた面もある一方で、カラ馬を頼ったレースは危険であることを忘れてはならない事例かと思います。
2000年「京都ジャンプS」
勝ち馬:2番人気・メイショウワカシオ
平地で41戦3勝(900万下クラス)で2桁着順が続いた【メイショウワカシオ】。障害未勝利3戦目で勝ち上がるとオープン特別を連勝。阪神スプリングJを2着→中山グランドJで4着となると、重賞3戦目のこの「京都ジャンプS」は同い年のレガシーロックに次ぐ2番人気で臨み、初重賞制覇を果たします。しかし、
カラ馬:11番人気・シロキタガリバー
障害重賞馬であったエイシンワンサイドと後に障害重賞馬となるメジロライデンら1桁人気の馬2頭と、2桁人気のシロキタガリバー、ローズコンテッサと14頭立てだったレースで計4頭が競走中止となる大波乱のレースとなりました。
このうちシロキタガリバーがカラ馬先頭ゴールを決め、2000年代初の(障害を含めた)重賞カラ馬先頭ゴールの事例となったとされています。
2008年「エリザベス女王杯」(中央G1での唯一の事例)
そして、2008年には中央競馬のG1で唯一の事例が置きています。
勝ち馬:4番人気・リトルアマポーラ
人気は5歳だった【カワカミプリンセス】。5戦5勝で牝馬2冠を達成するも、続くエリザベス女王杯で12着降着となり、そこから2年近く勝ち星に見放されていた中で単勝1.8倍に支持され、2年前のリベンジを果たすことがファンから期待される中での2008年「エリザベス女王杯」。
2番人気はベッラレイアで、3歳馬の1頭【リトルアマポーラ】は「クイーンC」勝ち馬ではあるものの、牝馬三冠路線では5・7・6着と苦戦しており、単勝13.2倍の4番人気という位置づけでした。
2008年 エリザベス女王杯(GⅠ) | リトルアマポーラ | JRA公式
しかし、レースは蓋を開ければ、直線で後続を突き放し、人気のカワカミプリンセスやベッラレイアを1馬身半突き放しての優勝。ルメール騎手の剛腕が唸っての勝利によって、牝馬三冠路線を制した馬を退けJRA賞(最優秀3歳牝馬)を受賞しています。
カラ馬:3番人気・ポルトフィーノ
実はこのレースで3番人気に支持されていたのが、カラ馬1位となる【ポルトフィーノ】でした。クロフネとエアグルーヴの仔という大注目の良血馬であり、2戦2勝で迎えたアーリントンC(牡馬相手)で8着と敗れ、桜花賞を取り消すと、半年間の休養を余儀なくされ、秋に準オープン「清水S」を制して『遅れてきた良血』の活躍を期待されての7.9倍でした。
母の主戦騎手でもあった武豊騎手が、スタート直後に振り落とされて落馬。そして結果的には最後、同じ3歳のリトルアマポーラを更に突き放すレースで先頭で駆け抜けていきました。
ポルトフィーノは生涯高い人気を集めるも、主な勝鞍は「エルフィンS」と準オープン「清水S」にとどまり、今は繁殖牝馬として産駒の殆どが勝ち上がるという良母となっているようです。
2010年「ユニコーンS」
勝ち馬:1番人気・バーディバーディ
皐月賞に出走するも大敗し、ダートに転向して早速「兵庫CS」を制していた【バーディバーディ】は、他馬よりも重い57kgながら単勝1.6倍の断然1番人気に支持されていました。
レースは直線で外から他馬を差し切り、2着に2馬身半差をつける完勝。しかも、目の前を走るカラ馬を目掛けて更にスパートを掛けるという強い闘争心を感じさせる内容となりました。
後にG1を含む重賞で何度も3着などに好走する実力が、若き3歳のこの時からはっきりと出ていたことが窺えます。
カラ馬:4番人気・コスモセンサー
そんなバーディバーディを、スタート直後に落馬しながら先頭に立ち、最後まで先頭を譲らなかったのが4番人気の【コスモセンサー】でした。こちらはアーリントンCを制してNHKマイルCまで出走するも大敗。ユニコーンSで落馬し、プロキオンSでシンガリ負けを喫したことでダート路線を諦め、芝に戻ると古馬になってからオープン特別を3勝、安田記念では15番人気で3着と健闘しています。
2016年「東京ハイジャンプ」
勝ち馬:1番人気・オジュウチョウサン
2016年秋の「東京ハイジャンプ」を制したのは、この年の中山グランドジャンプを制して障害の新鋭という(当時はまだ)位置づけだった【オジュウチョウサン】です。障害3連勝目のタイミングでした。
約4か月ぶりの10月16日には、東京ハイジャンプ (J・GII)に出走。1番人気を背負い、最終コーナーでは先頭集団に並びかけるも、空馬で並走していたラグジードライブが外へ逸走し、馬体を当てられ大きく失速した。思わぬ展開に東京競馬場はどよめきたったが、最終障害までの短い距離で体勢を立て直すと無難に飛越。狭い馬群の中央へ巧みに潜り込むと鞍上の鞭で再加速して1馬身半差で突き抜け、印象的なレースぶりで重賞3連勝を挙げた。
オジュウチョウサン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カラ馬:8番人気・ラグジードライブ
かつて「オジュウチョウサンが本格化してから唯一障害で競り負けた馬」などと言われていたのが、このレースでカラ馬先頭ゴールを果たした【ラグジードライブ】です。
デビュー2戦目で平地の未勝利勝ちを収めるも、そこから500万下でも掲示板にのれず、4歳時に障害へ転向。障害未勝利3戦目で勝ち上がると、オープン特別を2度3着となり、初(にして唯一)の重賞挑戦となったのがこの「東京ハイジャンプ」でした。
2016年 東京ハイジャンプ(J・GⅡ) | オジュウチョウサン | JRA公式
スタート後の向正面での連続障害の2つ目で落馬した【ラグジードライブ】でしたが、マキオボーラーに絡むようにしてくっついたり離れたりしながらレースを続けます。
最後の4コーナーでは外から先頭に並びかけたオジュウチョウサンにタックルをするかのように外へと膨れたり、直線の置き障害の飛越の前後で進路を妨害するかのようなレースを見せた姿が(決して良い意味ではないですが)印象的なものとなっていました。
2023年「東海S」
勝ち馬:2番人気・プロミストウォリア
脚部不安のため1年に1走程度しかできなかった【プロミストウォリア】が、ムルザバエフ騎手と共に連勝し、1勝クラスから通算4連勝となったのが2023年の「東海S」でした。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カラ馬:12番人気・ヴァンヤール
未勝利を5戦して勝ちきれず、公営名古屋で2連勝してから中央に戻り、初勝利から6戦5勝でオープン入り。そして、2022年年末の名古屋グランプリ(JpnII)で2着となった【ヴァンヤール】は、単勝12番人気であったものの、複勝では影に人気を集めており、注目度は高い存在でした。
しかし、レース直後に荻野極騎手を落馬すると、向正面で外々を進んで好位に付けます。そして直線を向いた所でスパートを掛け……たことによって影響を受けてしまったのは、1番人気の【ハギノアレグリアス】でした。
こちらもプロミストウォリアと同じ明け6歳で、2020年10月に3連勝でオープン入りを果たすも長期休養で20ヶ月ぶりの戦線復帰後はオープンクラスで堅実な走り。復帰2戦目の太秦Sでオープン勝ちを収めると、みやこSで2着と善戦した中で「重賞初制覇」を目指してのレース。
結果的に川田将雅騎手が勝負から一旦退いて2着で入線することを決断しますが、重賞初制覇の可能性もあったレースだけに、【ヴァンヤール】の逸走が勝敗に影響を及ぼしたことは、単なるカラ馬の激走による注目度以上の話題性を呼びました。
2024年「小倉大賞典」
前例から約1年、フェブラリーSの裏開催であった「小倉大賞典」で、再びカラ馬による重賞先頭ゴールが起こります。
勝ち馬:3番人気・エピファニー
ディープモンスターが出走を取り消して15頭立てとなった同レース、ハンデ戦らしく割れた人気の中心は明け5歳馬たち。その一角エピファニーは、4連勝でOPクラス入りして以降人気を崩さず来たもののその期待に十分にこたえることが出来ず、久々の1番人気だった前走中山金杯を11着と大敗しました。
1000m57.2秒という前がバラバラの展開を見るような7番手で前半を進み、少しずつ前との差をつめて進出。消耗戦のような戦いを制して、重賞初制覇を果たします。
カラ馬:8番人気・ホウオウアマゾン
しかしそのエピファニーを3/4馬身振り切って表面上の先頭ゴールを果たしたのは、G2で2着3回の実績を持つホウオウアマゾンでした。アーリントンC以来3年間勝てていないとはいえ、海外遠征もあり主要4場での重賞で戦ってきた同馬に小倉大賞典ではやや相手関係的にも期待が集まり、15.4倍の8番人気でした。
しかし、前走5着からの期待をスタート直後に打ち砕くように初コンビの佐々木大輔騎手(20)を大胆に振り落とし「落馬競走中止」の扱いに。それでも8枠大外から普段のように好位につけるとハイペースで飛ばす前を見ながら理想的なレースを進めます。直線を向くと、逃げ粘る今村聖奈のセルバーグを外から捉えきり、さらにエピファニーを凌いで(表面上は)先頭ゴール。
あっぱれな走りっぷりがSNS上が湧きました。
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