【はじめに】
この記事では、『暑い』様子を描いた季語たちを「プレバト!!」で過去に披露された俳句を通じて理解していきます。全体的な流れを掴みやすくするため簡単な図を交えて紹介していきますので、ぜひ最後までお読み下さい!
(参考)試しに「暑い」季語を図示してみた
簡単にではありますが、「暑い」(+涼しい)系の季語を以下のように図示してみました。上に行けば行くほど暑くなり、真ん中の六角形に沿って季節が時計回りをしていくイメージです。(↓)
二十四節気に基づく歳時記の季節感としてしまうと、8月上旬の一番暑い盛りから既に「立秋」となってしまい「秋」となるため、どうしても「暑い」季語は晩夏に集中してしまうのが難しいところです。
これについては、私のnoteに2021年8月に書いたこともあったのですが、現代の“残暑”の厳しさは人命に関わる程であり、21世紀の中盤にかけて「暑さの季語」が充実していくのではないかと考えている所です(既に「真夏日」の上に「猛暑日」が設定され、更に新たな言葉も模索される状況にあります。)
以下、季節ごとにざっくり纏めていきますが、個別の季語の説明についてはぜひお手元に俳句歳時記を置いて、引きながら進めていただければと思います。
【春】の季語:「春暑し」
冬は「小春日和」など『暖かい』季語はありますが、『暑い』季語となると基本的には晩春を待たねばなりません。昨今では春も半ばですっかり夏日(場合によっては真夏日)もということがありますが、まだ冬服や春服が基本な中の季語『春暑し』は、夏の暑さとは違った趣きがあります。
(2020/04)『春暑しマスクポッケにA定食』/皆藤愛子
特待生だった2020年4月(コロナ禍になった直後)に公開された本作品は、現状維持で「春暑し」という季語が添削で消えてしまいましたが、原句から空気感が伝わります。
下の記事にも書いたとおり『マスク』が季語としての力を強く残していた当時の微妙な空気感と共に、『春暑し』という季語の触感を取り戻していただければと思います。
【夏】の季語:( 多 数 )
そして、上の図からも一目瞭然なように「暑さ」の季語は当然【夏】に集中しています。絶対的な気温が高いこともありますが、立夏の5月から現実には9月・10月まで残暑が続くように感じる昨今の暑さの季節です。
ひょっとすると季語の雅な20世紀の空気感では、この過酷さを表現することが難しく感じられるかも知れませんが、ひとまず従来の流れをベースに振り返っていくこととします。
【初夏】の季語:「薄暑」ほか
先に、ゴールデンウィーク中に訪れる「立夏」からの【初夏】をみていきます。時候の季語としては、例えば『夏浅し』や『立夏』等があり、その流れだと「プレバト!!」では『夏めく』が多用されます。
- 『青空の青ときめいて夏めいて』/朝日奈央’
- 『夏めくやこれより打ち出す中華鍋』/藤本敏史
そして、「暑」という文字を含むものとして夏のはじめ頃に登場するのが『薄暑』です。的場浩司さんは『薄暑光』という傍題を使った句を披露していましたが、下には添削後の2句を紹介します。
- 『喪服の吾行く日常といふ薄暑』/梅沢富美男’
- 『老犬は眠る薄暑の腹さらし』/的場浩司
ちなみに、手元の歳時記には「薄暑」の傍題としてこのほか「軽暖(けいだん)」というものがありました。「暖(かい)」という字が使われるのは、向こう半年間期待できないほどの『暑い』シーズンに突入することとなります。
【仲夏】の季語:「梅雨寒」など
旧暦5月 ≒ 新暦6月を「仲夏」と言いますが、これはまさに「五月雨=梅雨」シーズンに該当します。5月の初夏の晴れから一転して、曇り・雨がちの日が多くなるためか、仲夏に限った暑さの季語はほとんど見られず、むしろ「梅雨寒」や「梅雨冷」といった寒い系の時候の季語が目立ちます。
梅雨のさなかの晴れのことを本来は「五月晴」と言いますが、暑さよりもカラッとして過ごしやすい感じを季語からは受けてしまいます。「白南風」の対義語の「黒南風」のように湿気を帯びた季語も天文などにありますが、『蒸暑い』や『溽暑』となると晩夏の季語になってしまうのが難しいところです。
【三夏】の季語:「暑い」ほか
代わりに、手元の歳時記に【三夏】に分類されていたものをご紹介します。「暑し(暑気、暑熱)」や「暑き日、熱き日、暑き夜」などの季語たちです。
- 『ラジオ体操歯抜けの判や朝暑し』/千賀健永’
- 『暑き日の想ひ出匂ふサンオイル』/白石糸’
【晩夏】の季語:「猛暑」ほか
晩夏は先に述べたとおり「暑さ」の季語の宝庫です。図ではバランスの関係で掲載する季語を絞りましたが、大判の歳時記では数十個の季語が掲載されていることでしょう。しかも昨今は「猛暑日」といった言葉が造語されていますし、どんどんと季語としても掲載されていくことでしょう。
寒い分類では、例えば『やませ』の記事でも触れましたが、『冷夏』や『みどりの夏』といった季語が掲載されているように、極端に寒く不作な年も稀に見られます。
しかし、俳句歳時記にあるような「涼し」と感じる瞬間すら昨今では珍しく、昼間は「真夏日」や「猛暑日」が連日続き、夜も「熱帯夜」が当たり前といった具合です。
今でも「真夏日」や「猛暑日」、「熱帯夜」といった気象用語的なものを季語として使うことに抵抗のある方が多いので、もう少しマイルドな季語として列挙しますと、
- 盛夏、夏盛ん、真夏、真夏日
- 『モンローや真夏の夜のコーク・ハイ』/武田鉄矢’
- 炎昼、夏の昼、夏真昼
- 『カレーにトマト浮かべて夏昼の鮮やか』/村上(マヂカルラブリー)’
- 極暑、酷暑、猛暑、炎暑・炎熱
- 『極暑来る竹籔乾ききる葉音』/中田喜子’
などがあります。そして、動詞として使われるものとして代表的なものに、
- 炎ゆ(もゆ)
- 『思い出のツアーTシャツ炎ゆ』/二階堂高嗣
- 灼く(やく)、灼岩、日焼岩
などがあります。「燃える」ではなく「炎」の漢字を使って『炎ゆ』と表現するのは文学的な工夫を感じると共に、季節は違いますが『陽炎(かげろう)』を彷彿とさせます。
また、日焼けなどの人事・生活の季語とは区別して、「灼熱(しゃくねつ)」の字を使った『灼く(やく)』という季語もあります。人肌などではなく、街全体とか無機質のものなどが太陽の厳しい日差しによって灼かれる様を描く最高級に『暑い』季語です。
【秋】の季語:「残暑」・「秋暑し」
そして、8月上旬の『立秋』を迎えると、俳句歳時記・暦の上では「秋」を迎えます。しかし、『暦の上では立秋を迎えましたが』と全国のお天気コーナーで言われているように、8月は暑い盛りであり、少なくとも俳句歳時記に載っているような『秋らしさ』を感じるようになるには半月~1ヶ月程度のラグがあるように思えてなりません。
『残暑』や『秋暑し』といった時に受けるイメージと、現実の8月の暑さはまるで別物かも知れませんが、名人・特待生は果敢に挑戦しています(↓)。
- 『ラジオ体操歯抜けの判や秋暑し』/千賀健永’
- 『秋暑し柱は饐えた父の臭い』/東国原英夫
- 『駆け抜けた残暑の泡のハイボール』/松岡充
現実と創作のはざまにあって、実は奥が深く難しい「秋の暑さ」の俳句。皆さんが作った作品や好きな句の鑑賞はぜひコメント欄にお願いします。
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