競馬歳時記【12月5週】「ホープフルS」

【はじめに】
重賞競走の歴史を振り返りながら季節の移ろいを感じる「競馬歳時記」。今回は、「ホープフルS」の歴史をWikipediaと共に振り返っていきましょう。

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ホープフルステークスは、日本中央競馬会 (JRA)が中山競馬場で施行する中央競馬重賞競走GI)である。

競走名の「ホープフル (Hopeful)」は、英語で「希望に満ちた」「望みを持つ」という意味。

ホープフルステークス (中央競馬)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

概要

近年の日本競馬においては2歳馬競走の開始時期の早期化に加え競走距離が多様化しており、特に中距離競走の充実ぶりが顕著になっていることから、2013年まで阪神競馬場の芝2000mで施行していたGIIIのラジオNIKKEI杯2歳ステークスを2014年より中山競馬場の芝2000mに変更のうえ、2歳中距離路線の頂点となる競走に位置づけてGIIに昇格した。

2017年1月、前年より日本グレード格付け管理委員会、並びにアジアパターン委員会へ行っていた格付昇格の申請が承認され、同年度よりGIとして施行されることになった。従前よりJRAにおける2歳馬限定のGI競走は12月に2レース施行されていたが、これによりJRAの2歳GI戦は芝コースでの競走が12月に3レース集中する格好となった。

歴史に関しては、前身とも呼べるレースが2つあるため、競馬ファンでも多少混乱してしまうことがあります。そこでまずは概要を下の表に纏めましたのでご覧ください。

項目ホープフルSラジオたんぱ杯
→ラジオNIKKEI杯
創設1988年1984年
時期12月最終週12月2週→4週
競馬場中山競馬場阪神競馬場
距離2000m1600→2000m
牡馬当初から出走可’90年までは不可
格付けオープン特別重賞(G3)

太字のところが現在の「ホープフルS(G1)」との共通事項です。『パート1国』となった日本はかつてのようにJRAだけでグレード競走を新設することが出来なくなった関係で、「ホープフルS」を重賞に昇格するのでなく、「ラジオNIKKEI杯」を『ホープフルS』に衣替えする方が手っ取り早く『G1』昇格を狙えると考えたのではないかと言われています。

ほぼ条件はオープン特別の「ホープフルS」を踏襲しているのですが、格付けという意味ではオープン特別を前身に出来ないという枠組の中で、「ラジオNIKKEI杯2歳S」を前身(回数などもそちらを踏襲)するしかなかったともいえます。

要するに2つのレースのいいとこ取りをして合併させ、『G1』昇格まで3年で漕ぎ着けた訳ですが、話がややこしくなるため、ここから歴史を振り返るパートは基本的に分けて紹介していきたく思います。

前身①:オープン特別「ホープフルS」

名前も時期も条件も距離も踏襲しているのに、オフィシャルには前身とはされないのが、オープン特別の「ホープフルS」です。

オープン特別ということもあって、勝ち馬からの活躍馬はそれほど多くないのですが、それでも、

といったG1馬を輩出しています。中山2000mという舞台設定もあってか、このレースを勝った馬にはマイル路線よりも中長距離路線を行った馬が多く、平成前半に2頭のクラシックホースを出したという点でも特徴的なレースだったといえます。

前身②:G3「ラジオたんぱ杯」→「ラジオNIKKEI杯」

格付けという点でも、回次という点でも、そしてレースのレベルという点でも、「ラジオたんぱ杯」から「ラジオNIKKEI杯」に至るこちらの重賞を、オフィシャルな前身として見做されます。

東西の「3歳牝馬ステークス」
1984年に「ラジオたんぱ杯3歳牝馬ステークス」の名称で創設。桜花賞と同じく、阪神競馬場の芝1600mで行われていた。

当時は3歳(現2歳)馬の重賞で最高格のGI競走として、関東に「朝日杯3歳ステークス」、関西に「阪神3歳ステークス」があり、3歳馬は概ねその所属に応じて関東・関西に分かれて頂点を争っていた。この両競走は牡馬・牝馬の区別なく出走できたが、牝馬がこれに勝つというのはそう多いことではなかった。

1984年にグレード制が導入されるのにあわせて、3歳牝馬限定の重賞が関東と関西に整備された。関東に創設されたのが「テレビ東京賞3歳牝馬S(現・フェアリーステークス)」、関西に創設されたのが「ラジオたんぱ杯3歳牝馬S」である。
当時、両競走はしばしばスポンサー冠を省略して「3歳牝馬ステークス」と呼ばれていたが、どちらも同じ名称になるため、「3歳牝馬ステークス(東)」「3歳牝馬ステークス(西)」のように表記されていた。

ホープフルステークス (中央競馬)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

設立当初は、上述のとおり牝馬限定戦でした。その最終年に勝ったのが、後のオークス馬【イソノルーブル】です。『裸足のシンデレラ』は、現2歳時に、こちらも名牝となるスカーレットブーケを2着として2馬身半差をつけて重賞初勝利をあげています。

イソノルーブル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

1991年の再編・牡馬戦化と距離延長
1991年に3歳重賞路線の大きな変更が行われ、従来の東西別のチャンピオン路線をやめ、牡馬と牝馬の路線の区別化が図られることになった。

これにより、朝日杯3歳ステークスは牡馬・騸馬のチャンピオン決定戦、阪神3歳ステークスは「阪神3歳牝馬ステークス」と改称し、牝馬のチャンピオン決定戦として位置づけられた。

本競走も従来の牝馬限定戦から大転換し、牡馬・騸馬限定戦に変更。距離も延長されて2000mになり、競走名は「ラジオたんぱ杯3歳ステークス」に改められた。

ホープフルステークス (中央競馬)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

そして、牡馬混合戦になったタイミングで距離が2000mに延長されると、中山開催のオープン特別よりも、クラシック級に直結する馬が次々と勝っていきます。

第8回1991年12月21日阪神2000mノーザンコンダクト牡22:05.9
第9回1992年12月26日阪神2000mナリタタイシン牡22:05.8
第10回1993年12月25日阪神2000mナムラコクオー牡22:05.7
第11回1994年12月24日阪神2000mタヤスツヨシ牡22:03.4
第12回1995年12月23日阪神2000mロイヤルタッチ牡22:02.7
第13回1996年12月21日阪神2000mメジロブライト牡22:03.1
第14回1997年12月20日阪神2000mロードアックス牡22:03.8
第15回1998年12月26日阪神2000mアドマイヤベガ牡22:04.1
第16回1999年12月25日阪神2000mラガーレグルス牡22:03.7
第17回2000年12月23日阪神2000mアグネスタキオン牡22:00.8

特に『スーパーG3』として語り継がれるのが、1995年(ロイヤルタッチ、イシノサンデー、ダンスインザダーク)と2000年(アグネスタキオン、ジャングルポケット、クロフネ)の事例です。21世紀に入ってしばらくは、中距離2000mの『G2(以上)』昇格の待望論の機運が高まっていきました。

ラジオたんぱ杯2歳ステークス
重賞級の馬が勝ち負けを続け、2004年はヴァーミリアン、ローゼンクロイツ、アドマイヤジャパン、シックスセンスが、2005年はサクラメガワンダー、アドマイヤムーンが好走しています。

第18回2001年12月22日阪神2000mメガスターダム牡2JRA2:03.4
第19回2002年12月21日阪神2000mザッツザプレンティ牡2JRA2:04.5
第20回2003年12月27日阪神2000mコスモバルク牡2北海道2:01.6
第21回2004年12月25日阪神2000mヴァーミリアン牡2JRA2:03.5
第22回2005年12月24日阪神2000mサクラメガワンダー牡2JRA2:01.9

そして、2003年には、ディープインパクトの兄・ブラックタイドが1番人気で4着。日本ダービー3着のハイアーゲームが3着、そして、優勝したのはホッカイドウ競馬から参戦した【コスモバルク】。

本馬以前に地方競馬所属のままJRAのGIを制覇した馬は1999年フェブラリーステークスメイセイオペラのみで、クラシックどころか芝のGIを勝った馬もいなかった。
だが本馬は2004年の弥生賞までJRAでの3戦3勝という実績に加え、一流とは言えない血統の安値の馬が、ときには1億円以上もの値段が付いたサンデーサイレンス産駒を始めとする良血馬を次々に負かしていること、また地方所属のまま中央競馬クラシック三冠への出走を果たしたことで、人気が高騰することとなった。

コスモバルク
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ラジオNIKKEI杯2歳ステークス
スポンサーの関係でレース名が変わっても、そのレースレベルは大きく変わりませんでした。4連勝で皐月賞に挑んだフサイチホウオーはじめ、ロジユニヴァース、ヴィクトワールピサ、エピファネイア、ワンアンドオンリーといったG1級の馬が国内外で活躍しました。

第23回2006年12月23日阪神2000mフサイチホウオー2:02.1
第24回2007年12月22日阪神2000mサブジェクト2:07.0
第25回2008年12月27日阪神2000mロジユニヴァース2:01.7
第26回2009年12月26日阪神2000mヴィクトワールピサ2:01.3
第27回2010年12月25日阪神2000mダノンバラード2:02.2
第28回2011年12月24日阪神2000mアダムスピーク2:02.4
第29回2012年12月22日阪神2000mエピファネイア2:05.4
第30回2013年12月21日阪神2000mワンアンドオンリー2:04.3

年によってレースレベルに差はあったものの、数年に1~2頭のペースでG1馬を輩出している状態が、20年近く続いた実績が買われ、2歳戦線の拡充を目指した2014年に先ほど述べた「合併」が行われることとなったのです。

平成時代:G2からG1へ

2014年に「G2」に昇格した(新生)ホープフルSは、当初2年こそ怪我などにより勝ち馬が大成できませんでしたが、2016年からは5年連続で1番人気が勝っており、更にクラシック級の馬が誕生していきます。

第31回2014年12月28日シャイニングレイ川田将雅(有)キャロットファーム
第32回2015年12月27日ハートレーH.ボウマン(有)サンデーレーシング
第33回2016年12月25日レイデオロC.ルメール(有)キャロットファーム
第34回2017年12月28日タイムフライヤーC.デムーロ(有)サンデーレーシング
第35回2018年12月28日サートゥルナーリアM.デムーロ(有)キャロットファーム

ちなみに普段ならば載せないのですが、「騎手」は外国人騎手が4連覇、馬主はキャロットとサンデーが交互に制している点が面白かったため敢えて掲載します。

2017年に中央競馬3つ目のG1に昇格(改革から僅か数年でのG1には、レーティングに多少の忖度が働いたという噂も?)を果たし、開催時期も12月28日に固定されることとなりました。中央競馬で開催できる年内の下限とも言えるタイミングです。2016年のレイデオロは日本ダービーと天皇賞秋、2018年のサートゥルナーリアは、4連勝で皐月賞を制し、有馬記念でも2着となる活躍を見せました。

令和時代:G1初の無敗三冠馬の輩出

2016年から「レースレーティング」を合わせて掲載します。2歳牡馬G1の国際的な基準は110ポンドであり、それを何とか上回っている段階ですが、勝ち馬を見るとG1に恥ずかしくない面々です。

第33回2016年12月25日110.50レイデオロ2:01.3
第34回2017年12月28日110.00タイムフライヤー2:01.4
第35回2018年12月28日111.50サートゥルナーリア2:01.6
第36回2019年12月28日110.50コントレイル2:01.4
第37回2020年12月26日112.50ダノンザキッド2:02.8
第38回2021年12月28日111.50キラーアビリティ2:00.6

特に2019年(令和元年)を勝った【コントレイル】は、令和初の無敗三冠を達成したことで知られていますが、過去の無敗三冠馬(シンボリルドルフ、ディープインパクト)はG1(どころか重賞)を現2歳時に勝っていませんので、無敗三冠馬を輩出したという点でも設立の意味があったと言えるでしょう。

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ちなみに、日本の競馬ファンは何の疑問も持たずに「ホープフルS」を受け入れていますけど、そもそも世界的にみても「2000mクラスの2歳戦」しかもG1というのは非常に珍しいのです。中長距離の本場といった印象のあるヨーロッパでも、伝統的に各国のG1はマイル以下で行われるものばかりです。

クリテリウム・ド・サンクルーCritérium de Saint-Cloud)は、フランス・ギャロが施行するサンクルー競馬場2000メートルで施行される競馬G1競走である。2歳牡馬牝馬のみ出走できる。フランスにおける最も距離の長い2歳G1である。

クリテリウムドサンクルー
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唯一ともいって良い日本でも著名なG1レースというのが、フランスで秋も闌に行われる「クリテリウムドサンクルー」ですが、クラシックディスタンスのG1に出走してもなかなか結果が出ていません。近年では2016年に勝った【ヴァルトガイスト】などぐらいで、マイルで勝負できるスピードに劣る馬が揃ってしまいかねない印象を受けてしまいます。

今のところ、日本の「ホープフルS」は、クラシック競走を見据えたスピードもスタミナも兼ね備えた馬が揃ってくれています。G1昇格を見据えた合併から間もなく10年、G1に昇格して5年を経たところで、中央競馬の1年の最後を飾るに相応しく、来年が楽しみになるような文字通り「ホープフル」なG1として定着していくことを願っています。

皆さん、では、良き年末年始をお過ごしください。

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