【はじめに】
五七五の17音の俳句では、音数に制約があることもあり、音数を調整(節約)した表現が良く使われてきました。「プレバト!!」で夏井先生が添削例などで使ったことで、独特な言い回しを初めて知ったという方も多いのではないでしょうか。
今回はその中でも、多くの初心者さんに影響を与えた単語だろうと思う『(沈黙の黙と書いて)黙』をピックアップして、「プレバト!!」で披露された事例を振り返っていきたいと思います。
皆さんの俳句作りや俳句を鑑賞する際のヒントになれば幸いです、早速みていきましょう!
添削例として初登場した『黙』
「プレバト!!」に『黙』が初登場したのは2017年。俳句添削の定着をしばらく待ってというタイミングだったかと思われます。2017~18年にかけて3度登場した『黙』添削例をみていきましょう。
(2017/02)A.B.C-Z・河合郁人
初回は「節分」をテーマとした2017年2月、特待生を目指す3人が揃って凡人となる厳しい回でした。原句では「追儺」という季語を説明しただけという厳しい評価となり、せめての工夫として父親の存在と、その存在を沈黙させるというワンポイントを加えることでオリジナリティを出そうとしています。
(2018/07)梅沢富美男 名人
2例目は、梅沢名人の句。地元福島を詠んだ句でしたが、名人10段への昇格とはならずでした。添削の主眼は「と共に」の後半3音が手ぬるいというもので、そこの節約で浮いた3音を季語『溽暑』の方に比重を傾けるという論法でした。
(2018/08)岩永徹也
その翌月、予選が行われた第2回「炎帝戦」で、最下位となった岩永徹也さんの句で再び『黙』が登場します。
ここまでは下五の最後に置かれていた『黙』を中七の前半に置き、原句の五五七とは異なった韻律での17音(七五五)に添削されました。
このように立て続けに『黙』を使った添削を披露したこともあって、平成の終わり、コンテストや夏井先生が選者を務める投句先において『黙』を使った句が散見されるようになったようです。みんな使いたがるのは分かりますが、それが全国放送のテレビとなると影響力が凄まじく、集中してしまったということでしょう(^^;
『黙』を使った作句例
(2019/03)柴田理恵(2ランクアップ)
『黙』を使った最初期の例にして代表格となっているのが、平成の終わりに柴田理恵さんが披露した句です。(↓)こちらの記事で詳細を書いていますので合わせてお確かめください。
全てが強い言葉たちによって構成されている柴田さんのこの句は、『黙』で句を終えるという基本に則った素晴らしい作品で、2ランクアップも納得の結果だったと思います。
ちなみにこの句が披露された際の、フジモン名人と夏井先生の掛け合いも面白かったので、MBSの公式HPから引用したいと思います。
藤本敏史(FUJIWARA)は「想いが詰まっていてすごくいいんですけど、“黙(もだ)”がねえ。この番組よく出てくるんですよ。これ現状維持ですよ」と予想。
一方で、フジモンの指摘は的外れではないとも明かし、「プレバトで何度か”黙”と添削したら、全国の俳句大会で”黙”で終わる句が山のように出てきて、もう食傷気味だったんです」と苦笑い。
(引用元)柴田理恵が「犯人逮捕」で異例の”2ランク昇格” 夏井先生「これは上げないと」|MBS「もう一度楽しむプレバト」
(2021/09)千原ジュニア名人
『黙』に食傷気味であると夏井先生が明言したことに加えて、プレバト!! での初出例があれほどまでに鮮やかな2ランクアップだったことを受けて、多くの方が避けるのも納得できる所だったと思います。
実に2年半ぶり。令和に入って初めて使ったのは、千原ジュニア名人でした。結果的には現状維持でしたが、原句の『黙』を活かしての添削例ともなりました。
定型から公園を後半に配置する「句またがり」の形とすることで、前半の『黙』の持つパワーが増した様に感じられます。こういった句またがりの前半に『黙』を配置するのも一つの手ということですね。
(2022/09)春風亭昇吉
『◯◯の秋』をテーマに3つのブロックに分かれて行われた2022年・金秋戦の予選。初めて決勝進出を達成したのが、Aブロック2位で予選通過した【春風亭昇吉】さん。特待生5級でやや軽視されていた様な周囲の反応をまるで一蹴するかの様な高いクオリティだと評価されていました。
『錦秋(きんしゅう)』という難しい季語に始まり、季語の意味も難しい中で、『ショーウィンドー』という長いカタカナ語を取り合わせ、前半を構成。そして、『に映る』という動詞で最後に誘導をして『黙(もだ)』に着地します。形のないものを『映る』という動詞で描くことに工夫がありますよね。
これまで春風亭昇吉さんは、過去の作品では(特に特待生昇格以降は)意図が先生や周囲に通じず苦戦していましたが、この句は過去の番組内での高評価を研究したかのような手堅い作りとなっています。
過去に『黙(もだ)』と題した作品が多く披露されてきたこれまでの歴史を踏まえた作品であったことを、改めてこの記事でお確かめいただけたらと思います。皆さんも用法用量を守って、食傷気味になられない範囲で「作句」にチャレンジしてみて下さい!
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