【はじめに】
この記事では、日本語版ウィキペディアなどに断片的な記載があるのみの昭和のラジオ番組『にっぽんのメロディー』について、一部補足を入れながら振り返っていきたいと思います。
ウィキペディアにみる「にっぽんのメロディー」について
まずは日本語版ウィキペディアにある、ラジオ番組「にっぽんのメロディー」に関する記述を引用していきます。
『にっぽんのメロディー』は、1977年から1991年3月まで放送されたNHKラジオ第1放送のラジオ番組である。
この番組は中西龍がNHK退職前後からパーソナリティを務め、主として戦前 – 戦後初期の懐メロにスポットライトを当てて、リスナーから寄せられたメッセージとともに当時の楽曲を放送していた。なおリスナーから寄せられたリクエストに対しては必ず放送日を事前に告知したという。
にっぽんのメロディー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
最初に読んで(良い意味で)カルチャーショックだったのが、『なおリスナーから寄せられたリクエストに対しては必ず放送日を事前に告知したという。』この一文です。
こういった手厚いリスナーフォローをしている番組というのは、あまり聞いた記憶がありません。当時は『エアチェック』文化の大衆化(ブーム)も背景にあったものと思われます。
「赤とんぼ」のメロディーに載せて展開されるオープニングの口上「歌に思い出が寄り添い、思い出に歌は語りかけ、そのようにして歳月は静かに流れていきます。皆さんこんばんは、にっぽんのメロディー、中西龍でございます」という挨拶と、エンディングの俳句にまつわるエピソードの紹介は中西節として親しまれた。
( 同上 )
太字となっているオープニングの口上は、この番組の代名詞的なフレーズで、この一節から始まる中西アナウンサーの語り口に魅了されたリスナーも多くいらっしゃいました。
特徴①:「中西龍」アナウンサーのお声
中西 龍(なかにし りょう、1928年6月16日 – 1998年10月29日)は、元NHKアナウンサー、ナレーター。東京都出身。
1953年に明治学院大学英文科を卒業後、NHK入局(同学年の同僚に鈴木健二がいる)。熊本、鹿児島、旭川、富山、名古屋、大阪、東京などで勤務した。独特の濁り漂う声質と淡々とした話術で『NHKのど自慢』の司会、『ひるのプレゼント』の司会、時代劇『文五捕物絵図』、NHK大河ドラマ『国盗り物語』、『きらめくリズム』『連続テレビ小説』の語り手、『みんなの茶の間』、文芸作品の朗読などを担当。NHK在職中、美空ひばりの懇願で彼女が歌う民放番組の収録に協力。ライブテープにも声の出演を果たしている。
一人称として「私」ではなく「当マイクロフォン」を使った。
1977年から1991年までNHKラジオ第1放送で放送された『にっぽんのメロディー』では、「歌に思い出が寄り添い、思い出に歌は語りかけ、そのようにして歳月は静かに流れていきます。」のオープニングナレーションがリスナーに強い印象を残した。思い入れたっぷりの語り口は、アナウンサーとしては異例ながら、歌謡番組にはぴったりとはまり人気を呼ぶ。
1980年前後には、毎年暮に放送される明智小五郎ものの連続ラジオドラマのナレーターでは、明智を演じる広川太一郎に次ぐ第二主役ともいうべき名調子ぶりで、原作当時の流行歌などをたっぷり織り込む箇所では「ここでしばし、にっぽんのメロディの時間です」などと脚本の遊びもあった。1984年6月16日、NHKを希望退職。『にっぽんのメロディー』のほか、フジテレビ『鬼平犯科帳』やCMのナレーションを担当し、フリーとして活動の場を広げた。
中西龍
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
まず抑えておきたいポイントがお名前の読み方。「龍」と書いて「りょう」アナウンサーです。
そして単なるアナウンサーとは異なり、『ナレーション』や『朗読』といった領域で好評を博していたことからもわかるとおり、その語り口調とリズムが最大の特徴であり魅力だったという風に感じます。
いかに声が良いとはいえ、“一介のアナウンサー”が歌謡曲のナレーションでCDシリーズとなるというのは本当に強い魅力がなければ果たされるものではないと思います。それこそ民放での『JET STREAM』の(声優・俳優さんでいらっしゃいますが)【城達也】機長など限られた人間しかナレーションを売りにした商品がシリーズ化することはないと思います。
特徴②:中西龍アナウンサーの語り口調
あまりウィキペディアに書かれていないものの、個人的に大きく惹かれたのが「中西龍アナウンサーの『語り口調』」ではないかと思います。特に『言葉遣い』の部分です。
- 「いつもご好意をありがとうございます。中西龍でございます。」
- 「ご丁寧にありがとうございます。嬉しく存します。」
- 「寒い日が続いておりますので、どうぞ●●さんもお身体にお気をつけて。」
こうして、リスナーさんからの葉書に丁寧に返答される姿が印象的でした。聴取者からのお便りの文面も非常にハイクオリティーで、教科書のようなお手本としたい文面でありつつ容易に真似することが出来ない水準のものばかりでした。
夜10時頃と、明治・大正時代生まれの方には遅い時間帯だったかとは思いますが、かなり多くの聴取者がこの番組のために夜更かしをして聞いていたことが偲ばれます。そして、
- 「~~県~~郡~~町(字)にお住まいの●●さん、お元気でいらっしゃいますか?」
などと言うように、今でこそ「都道府県」名(あってもせいぜい市区町村名)しか読まれないですが、この番組では結構な頻度で「字(あざ)」まで読み上げておられ(それこそ番地を最後まで言うこともしばしば)、個人情報保護・遵守の今とは隔世の感があります。ただそれも古き良き時代の魅力だったかと思います。
加えて、常連リスナーさんのことを「把握して、過去の投稿も覚えていた」傾向が感じ取れたことも、番組や中西アナへの愛着を高めることに繋がり、人気が根強く拡大していったものと思います。
- 「春に大病をされたとお書きになっておられましたが、こうしてまたお便りを頂戴して嬉しく思っております。」
- 「今年の冬は、北陸でも大雪になっていると伺っております。どうぞ温かくしてお楽しみくださいね。」
などと全国放送で私信を頂けたら、きっと聴取者は嬉しかったに違いありません。こういった心の掌握も、現代には中々見られない芸当かと思いました。
特徴③:テーマソングの『赤とんぼ』(オカリナ演奏)
中西アナウンサーの口上に加えて、もうひとつ特徴的な「音」が、番組の実質的なテーマソングとなっていた『赤とんぼ』(オカリナ演奏)です。
どうやら現在流通しているCDには収録されておらず、愛好家の方の情報によると、
『小出道也 ~美しい日本のうた~〈オカリーナの調べ〉』(キング・SKK-765・1972年)
というレコード盤に収録されている(ネットでも流通しておらず)とのことで、ネット上に音源が見受けられますが、ダウンロードなどを含め入手することは困難かと思います。
などと詳細を書いたのは、それぐらいにBGMとして流れたこの美しいオカリナ演奏での『赤とんぼ』の音色が絶妙に哀愁・ノスタルジーを誘う名テーマソングだったからです。前述の中西龍アナウンサーの口上の思い出ともリンクして、ヘビーリスナーやコレクターならば是が非でも欲しいと感じる程です。
特徴④:エンディングの「俳句」コーナーも魅力
そしてこの番組は、「リスナーからのリクエスト+近況報告」だけでなく、エンディングには『俳句』を披露するコーナーがあり、その俳句に関連したようなエピソードを中西アナウンサーが語ったり、時には演じたりしていました。上述のウィキペディアの文言を借りれば、
エンディングの俳句にまつわるエピソードの紹介は中西節として親しまれた。
( 同上 )
とあるように、『俳句』を自分の経験であるかのように引き寄せて語る様が、ある意味NHKアナウンサーらしからぬ主観全開っぷりだったと記憶しています。お便りを紹介するだけの方がNHKアナウンサーのイメージと合致するかと思います(正直)。
※ 現在も放送されている『ひるのいこい』の『暮らしの文芸』とはイメージがかなり異なりますね。
調べると、中西龍アナウンサーは、昭和60年代に『俳句』に関する書籍を複数出版しています。いずれも俳句の『鑑賞』がテーマです。(↓)
- 俳句の手帖(1985年)
- 俳句の楽しみ方
- 私の俳句鑑賞(1987年)
鑑賞するにしても、俳句の素養がなければ、自分に寄せることは出来ず、あるいは誤った解釈をしてしまう恐れもあります。そのために日々の研鑽に努めておられたのではないかと思料します。
時代は丁度『サラダ記念日』で短歌がブームとなっていた頃で、俳句の風当たりは今とは比べ物にならないほどに厳しかったと思いますが、「プレバト!!」などに先駆けること四半世紀、メディアを通じて俳句文化に貢献していた事実も、決して見過ごしてはならない点かと思います。
【おわりに】
ここまで、NHKラジオ第1放送で1977~1991年まで放送された『にっぽんのメロディー』という番組を取り上げてきました。当時を知る方は懐かしく思われたのではないでしょうか。
個人的には「復活して欲しいラジオ番組」の筆頭格ですので、ぜひ何かしらの形で復活を期待したいのですが…… 中西龍アナウンサーのあの語りがなければ、という当時のリスナーの方が多いかと思いますので、せめて番組の構成を参考にしていきたいなと感じました。
もし当時の番組の聴取者の方は思い出などについて、コメントをお寄せ頂ければ、当マイクロフォン(?)も嬉しく存します。以上、中西Rxでした。皆さんどうぞお元気でお過ごし下さいますように。
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