【はじめに】
この記事では、SNSを活用した『1億総観測点』化計画についてご紹介していきたく思います。それの実践編として、富士山の側火山である「宝永山」の初冠雪について、ここ10年あまりでの平年値を求めていき、新たな季語を提唱していきたいと思います。
言ってることはそこまで難しくないかと思いますので、ぜひ最後までザーッとお読み頂ければと思います。それでは参りましょう!
ウィキペディアにみる「季節現象」&「生物季節観測」
季節現象(きせつげんしょう)とは、初雪や初冠雪など季節を象徴する現象をいう。
気象庁が定義する主な季節現象
気象庁が統計を行う季節現象
以上が日本語版ウィキペディアの「季節現象」に列挙されている項目です。そして、備考として以下の文言が続きます。
備考
霜、結氷、雪、長期積雪、積雪においては季節において最初に観測された日と、最後に観測された日及び初冠雪の日において平年値が求められる。しかし、測候所は2010年までに原則廃止されるため初雪などの発表が行われる地点が減少するほか、初冠雪が観測される山も減る。三島測候所の廃止を例にとると、静岡県側の富士山の初冠雪の観測がなくなったほか、箱根山の初冠雪の観測が廃止された。
季節現象
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
この測候所の廃止に続いて、令和に入って『生物季節観測』が大幅に縮小されるにあたっても、以下のように『調査継続』を求める声があったと聞かれます。
2020年(令和2年)11月10日、気象庁は生物季節観測の種目・現象の変更を発表し、2021年(令和3年)より、気候の長期変化(地球温暖化等)及び一年を通じた季節変化やその遅れ進みを全国的に把握することに適した代表的な種目・現象を継続し、その他を廃止するとした。令和3年1月以降の対象は、アジサイ(開花)、イチョウ(黄葉・落葉)、ウメ(開花)、カエデ(紅葉・落葉)、サクラ(開花・満開)、ススキ(開花)の6種目9現象となる。
しかしその後、日本自然保護協会などの自然保護団体や日本生態学会などの学会などをはじめとして、様々な団体・メディアから調査継続を求める声が寄せられた。それを受けて気象庁では2021年(令和3年)3月31日に、気象庁および国立環境研究所が事務局となり、全国の市民の手も借りて本調査を継続する努力をすることを表明した。
生物季節観測
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
気象庁では、観測の自動化・無人化が進めてきましたが、ここからが本題です。
SNS時代は1億「総観測点」の時代か
スマートフォンを持つ人やネットを使用する人、そしてSNSを利活用する人の割合は増加の一途を辿り高止まりの様相です。厳密に1億人は居ないかも知れませんが、『1億総○○』と同じテンションで、『1億総観測点』時代が来ているように感じます。
例1.ウェザーニューズの『ソラミッション』
例えば、裾野を広げている「ウェザーニューズ」社のアプリで日々開催されている『ソラミッション』は、数千人単位のサポーター/リポーターが参加しています。
気象に関してはもちろんのこと、災害時(地震などを含む)には、その実情をはかることも目的とした有益な情報の収集にも一役買っています。全国規模にサポーターがいるメリットもあって、もちろん個々人の精度はオフィシャルな観測機関よりかは低いかも知れませんが、有志の熱いサポーターによる観測網は、かつての『測候所』と比べても十分に密だと言えるでしょう。
個人的には、ソラミッションを更に広げて活用すれば、『誰々の家からみた○○山の初冠雪』であるとか、『何々株式会社の本社の初霜』であるといった気象観測の平年値すら出すことは難しくないという風に感じてしまいます。もちろん公式な値ではないにせよ、そういった平年値が『桜前線』のように、全国規模で算出されるようになれば、季節学における進歩の一つになると思います。
例2.USGS(アメリカ地質調査所)のDid You Feel It?
一般市民からの報告を侮るなかれ。あのアメリカの公的機関(USGS:アメリカ地質調査所)も、世界各地からの報告を重要視しています。それが「Did You Feel It?」という地震の体感報告です。
皆さんも、ウェザーニュースの「ソラミッション」以上にお手頃に参加できます。世界各地からの報告を求めていますから、実際に体感した地震について、皆さんも英サイトから報告することができます。
今回はそのやり方をお教えする記事ではないのでこの辺で止めますが、下のように体感報告が日本各地からも報告され、それが(↓)図示されています。もちろん物理量から推測するものもありますが、人間の体感による報告を正式に(改正)メルカリ震度階級を決定する際に重視しているのです。
日本で「震度の判定に一般市民からの体感報告を用いている」と言われると、却って新鮮に聞こえるかも知れませんが、実はアメリカでも使われている手法だというのを知らない方もいらっしゃるのではないでしょうか?
提案)我々も独自に「観測」をはじめてみる?
徐々に「季節の移ろい」に関する観測や統計が、オフィシャルから時代の流れで縮小されていく中で、1億「総観測点」化と見出しに銘打ったとおり、皆さんも興味のある項目の「観測」をしてみたらどうかという風に感じています。『興味のあるものを観測してみたら?』というのが私なりの提案です。
ここで参考にしたのは、ウェザーニューズ社の名物予報士となった「山口剛央さん」です。ダンゴムシの切り抜きで有名になってしまった経緯もありますが、そもそも彼が「ダンゴムシ初見/終見」という観測項目を立てていた所が物語のスタートですからね。
少なくとも、興味のない人には『ダンゴムシ』の観測を続けるのは苦しいかと思いますが、そういった人が各地域に1人でも居れば、全国的な統計を取るにはまずまずでしょう。植物でも、動物でも、自然現象でも、興味のある人が観測してくれれば、それで十分だと思います。
冒頭で「1億総観測点」時代と書きましたが、実際には1億人も必要ありません。USGSやソラミッションも1万分の1でもそれなりの成果をあげています。
ただ、きっとこの記事を開いて、ここまでお読みいただいた皆さんでしたら、この思想に共感していただけるのではないかと思うのです。
観測例:富士山「宝永山」の初冠雪
ここで私が一つ、例を示してみたいと思います。実は私ではないのですが、自然現象の中から富士山の中腹にある「宝永山」に初めて雪が積もった(いわゆる「初冠雪」)の日のデータです。
富士山を静岡県側からみたときに見える「宝永山」は、標高2,693mで、1707年の宝永大噴火で生じた側火山です。ちゃんと写真を見ればひょっとすると見覚えのある方もいらっしゃるかも知れません。
標高3,776mの富士山の山頂などに雪が積もった場合、現在「甲府」から『初冠雪』が気象庁より発表されますが、有人観測所が減った関係もあり現在、静岡県側からの観測データはなくなりました。またもちろん、側火山に限定した観測データなどは存在しません。
一方で富士山麓の住民からすると、富士山(山頂)の初冠雪だけでなく、『富士山の雪がどこまで下りてきたか』で季節感を把握したりもします。真冬ならば『麓まで一面真っ白な富士山』が拝め、その前にも静岡県東部の住民ならば『宝永山あたりの中腹』まで雪が積もれば、秋本番を感じます。
宝永山初冠雪の平年値は10月下旬?(山頂初冠雪と同日も)
前置きが長くなりました。早速その宝永山初冠雪(?)の日付データを2011年から見て頂きましょう。
年 | 富士山 (山梨側) | 宝永山 (静岡側) |
---|---|---|
2011 | 09/24 | 10/04 |
2012 | 09/12 | 10/29 |
2013 | 10/19 | 10/19 |
2014 | 10/16 | 10/16 |
2015 | 10/11 | 11/27 |
2016 | 10/26 | 11/09 |
2017 | 10/23 | 11/14 |
2018 | 09/26 | 10/21 |
2019 | 10/22 | 10/22 |
2020 | 09/28 | 09/28 |
2021 | 09/26 | 10/10 |
2022 | 09/30 | 10/25 |
2023 | 10/05 | 10/30 |
左は山梨県・甲府で観測された気象庁の『富士山初冠雪』の日付で、右が静岡県側からみた『宝永山』初冠雪の日付(Rx調べ)です。2011年から2022年までで計算すると「10月23日」付近となります。伝統的な二十四節気に当てはめれば、『霜降』の頃であり晩秋にあたります。
そして、上の太字は『富士山(山頂)初冠雪』で一気に『宝永山』まで初冠雪を迎えた年です。実は、2年連続だったり数年に1回のペースで起きる現象だということが今回から窺えました。初冠雪といえば山頂に帽子をかぶったようにちょこっと雪が積もる印象があったのですが、現実には結構中腹まで、ざっと雪に覆われることもあるということなのでしょう。
ちなみにこのデータは私が目視したものではなく、SNS(Twitter)で『宝永山+雪』などで検索した時に出てきた画像などから過去に遡って集計したものになります。知らず知らずのうちに、貴方のSNSも『1億総観測点』化計画の一つの観測点になっているかも知れませんね(^^;
「宝永山初冠雪」を季語とするなら晩秋?
俳句歳時記には「富士の初雪」が初秋の季語として掲載されています。しかし現代の気象庁の観測では寧ろ仲秋にあたる時期に平年値があるため、「富士の初雪」が現実と少しずつ乖離しているのではないかと感じています。
その観点でいくと、秋の前半の『富士の初雪』ならぬ『宝永山の初冠雪』を季語とするならば、晩秋というのが季節的には正しそうです。10月23日頃(極値は前後の1ヶ月程度)ですので、秋本番といった具合になろうかと思います。
現実的には、「宝永山の知名度」や「音数(12音以上)」、「ニッチさ」から俳句歳時記に掲載される可能性は極めてゼロに近いですが、こういうデータの蓄積がなければ『検討』される俎上にすら乗りません。
こういったコツコツとした蓄積は、どこで役立つか分かりません(それはウェザーニューズ山口さんも語っていました)。ぜひ皆さんも自分の興味のある、また地域などの特性を活かしたデータの蓄積を進める1つの観測点としての生活を送ってみては如何でしょうか? 妙案があればぜひコメント欄にお知らせ頂ければと思います!
コメント