「プレバト!!」の『~~の香(か)』俳句を振り返ってみた【嗅覚】

【はじめに】
この記事では、「プレバト!!」で時折登場する『~~~の香』と下五が着地する句について振り返っていきたいと思います。

「才能アリ」の俳句たち

まずは手近なところから、一般参加者が披露し、「才能アリ」を獲得した作品からみていきましょう。『香(か)』と一音で収めた句を詠んだ初期の例として、特待生昇格前のパンサー向井さんがいます。

  • (18/05/31)
    『白南風に揺れ干すシャツのバニラの香』/向井慧
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    『白南風に揺れ干すシャツバニラの香』

季語は白南風しろはえで、梅雨明け(或いは梅雨後半の梅雨の合間)の晴れ空に吹く南風のことです。非常に気持ちの良い単語が並ぶ中で、畳み掛けるように下五で「バニラ」が登場し、そして「バニラの香」で着地をする。こちらもまだ特待生になる前だった【立川志らく】師匠を抑えて71点の1位となった向井さんの実直な句柄が当時から窺える内容でした。

その翌年には、【ブルゾンちえみ】さんが、「バニラの香」とは違った複雑で要素の多い「香」の句を詠んで、2位ながら堂々の才能アリを獲得しています。

  • (19/08/22)
    『秋風と混ざる荷物の異邦の香』/ブルゾンちえみ
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    『秋風混ざる荷物の異邦の香』

異邦というフレーズが非常に詩的です。どことなく格安航空で行ったのではない情緒みたいなものが句の内容から感じられる点も見事でした。「異邦の香」は、国によっては決して芳しいものばかりではない海外旅行の香りをも、一種の懐かしさを覚えさせるのですから素敵です。そういえば、こちらも季語は「風」にまつわるものでしたね。

特待生・名人の句(ジュニア名人タイトル戦初優勝句)

そして、時期が進んで2020年代に入ると、特待生・名人も「香」俳句を幾つも披露していきます。まずは「A.B.C-Z」の河合さんが詠んだこちらの句。

  • (20/07/09)『補助輪を外し三周麦茶の香』/河合郁人

情景は誰しも思い浮かべるでしょう。「麦茶」という夏の季語に少し懐かしさを覚えるあの感じの喚起力というのは、段位と関係なく立派だと強く関心したことを覚えています。

上五に「補助輪」という具体的なものを出して、「外し三周」と人物と状況を広げ、そして「麦茶の香」と嗅覚まで刺激する構成は、見習いたく感じますよね。

同じジャニーズでも、義務教育時代に違った「香」俳句を詠んだのが千賀健永さん。この句で名人8段に昇格した訳ですが、非常に複雑な構成となっています。

  • (22/08/25)『涼風至る駅弁の木箱の香』/千賀健永

地元・愛知と東京を新幹線で行き来していた当時の「駅弁の木箱」の香りを想起するという経験のオリジナリティとリアリティは、他人には真似できないものです。厳密には「風」そのものの季語ではないのですが、『涼風至る』という時候(七十二候)の季語も、香り立たせているかのように感じます。

そして、「香」俳句でタイトル戦初優勝を飾ったのが、2020年金秋戦での千原ジュニア名人でした。

  • (20/11/02)『痙攣の吾子の吐物に林檎の香』/千原ジュニア

梅沢永世名人からは「美味しそうじゃない」と難癖を付けられてしまいましたが、前半の非常に強烈な展開を『俳句という17音の器』に盛り付ける下五の展開は見事でした。
美味しそうではないものの、だからこそ『林檎』という秋の季語がしっかりと立っている気がするからこそ、タイトル戦優勝という評価が下されたに違いありません。こういう芳しくない「香」を演出することも時として非常に効果的なのです。

「~の香」を4句も作っている【横尾渉】名人!

そして、4度目ともなるとその【千原ジュニア】名人から『香(俳句)めっちゃスキやなぁ!』とイジられてしまったのが、最多賞を誇るキスマイ・横尾渉名人です。上に書きました通り、実に4作品(手元集計なので漏れがあったらコメント欄で教えてください)も披露しています。

確かに4句とも「~~の香」として終わっている点は共通しているのですが、細かな違いがあります。

  1. (17/10/12)『千年の樹海の風と枯葉の香』/横尾渉
  2. (19/10/10)『天泣のプラチナ通り檸檬の香』/横尾渉
  3. (22/01/06)『凍空の窓をゴンドラ紅茶の香』/横尾渉
  4. (23/01/09)『ガード下シメのおでんはクミンの香』/横尾渉

まず1・2句目は「(季語)の香」という形で下五を構成しています。『檸檬(秋の季語)の香』といえば間違いなく爽やかな印象を持ちます。一方で1句目の『枯葉の香』となると季節は少し進んで初冬になる訳ですが、持つイメージは『樹海』という単語の影響もあって一気に暗いものとなります。

“言われてみれば確かに匂いがするな”という季語に対して「(季語)の香」という形で下五を形成するのは、俳句で欠落しがちな嗅覚を刺激するという意味で効果的であり、ワンランク上を目指す上での、非常に重要な型となってくるものでもありましょう。

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一方、3・4句目は「(季語でないもの)の香」という形です。

更に細かく見ると、3句目は『季語を含んだ12音+(季語でないもの)の香」という中級者向けの型を使っています。「凍て空」や「ゴンドラ」といった強い前半の【屋外】に負けないよう、『紅茶の香』という【屋内】の対比を鮮明に描写しているのです。

そして、10段☆3に前進した4句目は、『ガード下』という季語ではない上五から展開して、中七で引っ掛けておいて【おでん】という季語からはあまり想像していなかった『クミン』というカレーなどでもお馴染みのスパイスの香りに展開する意外性が見事でした。

意外な形での下五の着地を、『嗅覚』をもって文字通り刺激するというのは名人クラスの上級テクかも知れませんので、ぜひ……使いこなせるかは別にしてチャレンジしてみてください。コメント欄に俳句を作ったぜひ書き込んでみて下さいね~! では、次の「香」俳句でお会いしましょう、Rxでした!

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