【はじめに】
皆さんこんばんはRxです。今回は「プレバト!!」俳句査定で、同じ単語で2句以上作った「プレバト!!の俳人」をまとめていきたいと思います。百聞は一見にしかず。早速、具体例をみていきましょう!
藤本敏史(永世名人)
2014 → 2017:節分
番組の最初期から番組に出演しているフジモン名人。俳句査定が始まった直後に「節分」という題で、才能アリ1位(当時の基準で80点)を獲得しています。若干芸人さんの「あるある」臭がしますが、地味に句またがりを使ったりしていて結構詠みごたえのある作品でした。
(14/01/30)節分の次の日靴に豆ひとつ
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(17/02/02)節分のセンサーライトが照らす闇
やはり「節分」という冬の季語(立春の前日なのでギリギリ「冬」)は、出しやすいこともあってか、3年後の2017年にも似た兼題写真が出され、2度目となる「節分」の句をフジモン名人は詠んでます。句の内容を見れば明らかなように、着眼点のレベルに大きな成長が窺えます。「光と闇」、しかも光を当てることによって「闇」が一層際立つという芸術作品のような陰影を意識した作品で、月間MVPにも選出されています。
ただ、「節分」のような一般的な季語は、多作している内にどうしても複数回使うことを避けられないのが常です。しかし、次に示すようにかなり近いフレーズを複数回使っているケースも実際あります。
2018 → 2021:(楽器)ケース
個人的には1句目が「春」らしくて大好きな作品です。『チェロケース』というモノに着地することで朧気にチェロケースを担いでいる人物まで浮かんでくる気がするからです。
(18/03/22)新幹線待つ惜春のチェロケース
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(21/10/28)背にホルンケース秋寂ぶのハチ公前
それから3年半後、今度は『ホルンケース』が登場しました。結果的には夏井先生は前進の評価を下していますが、長く番組を見ていると「既視感」が強かったというのが正直な感想です。しかも「惜春」と「秋寂ぶ」という心理が乗った季語&「新幹線待つ」と「ハチ公前」という場所&待つ感覚という点において、句の形は違いますが内容は似通っている面も否定できないかも知れません。
2016 → 2023:羊/ひつじ
初のタイトル戦優勝を果たした2017年の炎帝戦で「セイウチ」を詠んだフジモンは、初期から動物俳句を多く詠んでいます。冬には「ペンギン」の句で2位となるなど、ここぞという所で出してきました。
厳密には同じ単語といえないかも知れませんが、参考までにこちらをご紹介します。「羊」の句です。
(16/10/27)羊群の最後はすすき持つ少年
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(23/02/23)春の山ひつじに空の名を与へ
1句目は、名人初段からの降格を避けるべく気合を入れ、無事2段に昇格した時の作品。そして2句目は、名人10段☆4つから「永世名人」への昇格を果たした時の作品となります。
そして1句目は、2016年10月当時において「番組史上最高傑作」の評価を夏井先生から受けており、2020年の歴代俳句Top50でも秀逸句(Top20)に選ばれています。
NON STYLE 石田明(特待生)
2017 → 2017:秋天(しゅうてん)
名人・フジモンの場合は過去使った時から数年を経ていますが、ノンスタ石田さんの場合、エキシビション扱いの「俳句甲子園」の1ヶ月半後(放送日ベース)に同じ季語を使いました。「秋天」です。
(17/09/21)秋天を抜け百年をゆく飛球
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(17/11/09)秋天はがれ落ちる人にベンチに
上の句は俳句甲子園のエキシビションで勝利した句です。季語の本意に沿って「天高き秋の空」を高度の面でも描いています。一方で2句目は、「秋天はがれ落ちる」と大胆に展開しています。確かに同じ季語を文字列的には使っているのですが、一歩高度な使い方であり、“季語を信じている”から出来る技だと関心をしました。
千原ジュニア(永世名人)
2017 → 2018 → 2023 → 2024:750cc(ナナハン)
「プレバト!!」において芸人が『良い句を詠んで高評価を得る』ことこそが存在意義であり、『うまいことを言った風』に白けさせるのが一番おもんない と語る千原ジュニアさん。そのことに気がついて、本格的に勉強(←本人は嫌がりますが)を重ね、73点の高評価を得たのが、「750cc」の句でした。
(17/12/07)750cc のタンクにしがみつく寒夜 ↓ (18/09/27)750cc のアクセル戻し紅葉踏む ↓ (23/07/20)750ccの飛魚の如大夕立 → 750ccは飛魚夕立の湾岸線 ↓ (24/03/28)青光りせり750ccに花吹雪
実体験の強さを見せつけ、特待生への道筋を作ることとなった傑作は、番組内の特待生・名人のみならず、視聴者からも好評だったようで、タイトル戦にジュニアさんが出るたびに「750cc/バイク」の句の続編を毎回のように期待されていました。
その期待に応える形で詠んだのが2句目、2018年の金秋戦予選で披露し2位で決勝進出を果たした作品です。どちらの句も「750cc」に基づく実体験を通じ「季語」を主役に立てることに成功しています。
2023年の俳句については上の記事でも書きましたが、隠喩とすることで更に「750cc(ナナハン)」のかっこよさが際立つように感じました。
村上健志(永世名人)
2017 → 2019:初日記
そして、2度、同じ季語を使った俳句を披露しているのが、フルポン村上名人です。こちらも、過去に好評だった傑作句をセルフカバーしたような作品を2019年に披露しています。
(17/01/05)初日記とめはねに差すひかりかな
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(19/01/03)まだ白い明日が並ぶ初日記
1句目は、俳句タイトル戦が始まる前の「名人・特待生一斉査定スペシャル」で披露した作品です。僅か2度の通常査定で特待生に昇格し、3度目のこの回も「俳句査定史上初の2ランク昇格」を果たした優秀句です。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのスーパールーキーだった頃の一句です。
1句目も2句目も「初日記」という季語を『一物仕立て』的に読み上げるというハイクオリティな作品です。もう一つ、夏にも同じような形を取った作品群を生み出しています。
2018 → 2019:八月
(18/08/30)八月の海を置き去るバイクかな ↓ (19/08/22)八月の機内に点る読書灯
「八月」という季語の難しさについては、夏井いつき俳句チャンネルでも詳しく説明されており、私もその動画を受けて「note」に記事を書いていますので、ぜひそちらもご参照ください。(↓)
☆noteで『歳時記』 ~八月~
https://note.com/yequalrx/n/ncafab0eaf5af
村上さんはそんな難しい「八月」という季語を、別々のモノをうまく脇役に添えて句を作っています。
Kis-My-Ft2・横尾渉
2020 → 2021:風光る
ただ季語を重ねて使うだけではなく、(その賛否は別にして)季語を工夫して句を作り、タイトル戦を優勝(リベンジ)した事例もあります。キスマイ横尾名人の春の「風光る」句です。
(20/03/26)風光る硬式グラブ縛る紐
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(21/03/25)浜風光るスクイズの土埃
調べるまで気づかなかったのですが、確かにこうして比べてみると、どちらも「風光る」の俳句です。後者は「浜風光る」とアレンジをしていまして、こういうアレンジを好まない派の人も多いのですが、夏井先生は好意的に評価して「春光戦・優勝」という評価を下しています。
「風光る」というのは春の季語ですが、雰囲気メインで実景に乏しいタイプの言葉です。それを補う時に、横尾名人は(意図的か無意識かわかりませんが、)同じ「野球(センバツ高校野球)」に発想を飛ばして作句しています。
そして1句目と比べて2句目は遥かに映像の鮮明度も、勢いも、情景描写も勝っていて、たった1年で「風光る」という季語を掴んだ気がします。
梅沢富美男(永世名人)
2016 → 2021:肺
そして「Mr.プレバト」こと梅沢永世名人も、実はこういうパターンを取ったことが2度ほどあります。
(16/09/01)秋澄むや蒼し肺ふのありどころ
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(21/11/04)冷ややかや湖畔に肺の晒されて
1句目は「肺」という器官に着目をして、気温の下がってきた頃の空気を取り込むという構図の作品。
これに関しては、上に示した句たちとも違って「言いたいこともほぼ同じ」という点で、(あまり良い意味ではなくですが)手堅い句だと感じました。
2018 → 2021:義士
そしてこちらも、「三百年に一度の俳優」ならではの着眼点。赤穂浪士の「義士」に関するものです。
(18/12/06)義士の日のまねきに白く降る夜空
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(21/11/18)黒七味蕎麦に振り込む義士祭
これ、厳密には「義士祭」と「義士の日」は別の季節、別の項の季語なのですが、おっちゃんは区別をせずに使っていますので、『義士』という括りでまとめさせてもらいました(^^;
現代の生活の中に根付く「赤穂浪士(義士)」の存在という時代的な遠近感を、別々のモノに託していて、こちらは(季語の本意の理解は別にして)さすがは永世名人といった句柄だと感じました!
2019 → 2020 → 2023:養花天
そして残り1句(掲載決定49句)となって足踏みが続いている【梅沢富美男】永世名人が、満を持して再々登板させた春の季語が「養花天」でした。2020年3月に☆4つに昇格を決めた時以来の登場です。
(19/04/25)『手放せぬティッシュの甘く養花天』 ↓ (20/03/26)『給食費払えぬあの日の養花天』 ↓ (23/02/16)『赤チンの膝の記憶や養花天』
2句目も3句目も辛かった幼少期を回想する作品です。ただ「桜」という字のある季語ではなくて、『桜が咲く頃の曇り空』を指す「養花天」という季語に魅了される気持ちは良くわかります。
3句目は『赤チンとイジメの記憶養花天』と添削されてボツとなりましたが、いずれにしても、春後半のどんよりとしたお天気であっても、少し切ない幼少期の思い出であっても、こういった素敵な季語を知ることで少しは気持ちが紛れたり癒やされたりすることに、俳句の魅力を感じさせられますね。
中田喜子(名人)
2019 → 2022:花追風(はなおいて)
そして、自身の創った「造語の季語」で、初めて2度俳句を作ったのが中田喜子名人です。
(19/05/02)「とき」発車旅憂わしき花追風
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(22/03/10)花追風見知らぬ町の握りめし
詳細については、今後、「花追風」の記事で書きたいと思います。ただ結論から言ってしまえば、仮に自分の創った季語であっても、2句目を作るのは簡単ではないことがこの事例からも分かります。自分のものになっていない言葉を半可通な知識で作る場合は尚更です。
季語にしろ、季語でない言葉にしろ、ちゃんと理解した上で作らないと、なかなか前作を上回る評価を得ることは難しいんだなと感じました。今回の記事が皆さんの参考になれば嬉しいです。
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